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 米Google(グーグル)のクラウドコンピューティング部門「Google Cloud」が急成長している。Google Cloudの売上高は2022年第3四半期(7~9月期)で前年同期比38%増の69億ドルに伸びた。一方、成長投資を先行させた結果、営業損失は7億ドルと、同9%拡大している。

 業界首位の米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)、2位の米Microsoft(マイクロソフト)を追撃するため、どの分野に勝機を見いだすか。各国政府がデータ主権を持つ「ソブリンクラウド」への要望にどう応えるか。Google CloudのCEO(最高経営責任者)を務めるトーマス・クリアン(Thomas Kurian)氏に聞いた。

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長)

Google Cloudの売上高は急速に伸びている一方、インフラや販促への投資で営業赤字が続いています。いつ頃の黒字化を目指しますか。

 我々はGoogle Cloud事業に積極的に投資しています。実際、世界で拠点を拡大させており、2022年10月には新たに5つのリージョンの開設を発表しました。提供済みの35リージョンを含め、発表したリージョンは48になります。

Google Cloud CEO(最高経営責任者)のトーマス・クリアン(Thomas Kurian)氏
Google Cloud CEO(最高経営責任者)のトーマス・クリアン(Thomas Kurian)氏
(写真:米Google)
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 日本向けには、カナダと日本を結ぶ初の海底ケーブル 「Topaz」を2023年に開通させる他、印西市 (千葉県)で建設を進めていた巨大データセンターが2023年中に稼働する予定です。同データセンターは様々なGoogleのサービスをカバーします。

 正確な時期に言及することはできませんが、顧客ベースの拡大とともに、いずれ利益を出せるようになると確信しています。

近年は公共部門がクラウドを採用する例が増えており、各国政府からはセキュリティーやデータ主権など国ごとの法令への準拠を保証した「ソブリンクラウド」を求める声が高まっています。Google Cloudはこの要望にどう応えますか。

 我々は世界の様々な地域の政府機関や法人顧客向けに、ソブリンクラウドのソリューションを提供しています。

 例えば米国政府と協力して、空軍パイロットを訓練するシミュレーションシステムをクラウド上に構築しました。この他、米国空軍とは航空機整備の自動化、海軍とは機械学習による艦艇のさび腐食の検出などの取り組みを進めています。

 日本の中央省庁(デジタル庁)が2021年10月、政府共通のクラウドインフラ(ガバメントクラウド)のプロバイダーとしてGoogle Cloudを選択したことを光栄に思います。約350の厳しい基準をクリアして、クラウドベンダーとしての資格を得ることができました。

 我々がサービスを提供している日本の公共機関の例が肝付町(鹿児島県)です。ゼロトラストのセキュリティー対策としてBeyondCorp Enterpriseなどを採用している他、Google Workspaceが備えるマルウエアスキャンやサンドボックスなどのセキュリティー機能を生かしながら、コミュニケーションやコラボレーションの基盤を構築しています。

 この他の導入例には、高知県教育委員会との取り組みがあります。全ての生徒向けにGoogle Workspaceを提供したのに加え、BigQueryによるデータ分析を通じて生徒の学習状況を把握し、機械学習を使って学習計画を最適化するなどのサポートを提供しています。

各国の政府がソブリンクラウドに求める具体的な要件は、どのようなものでしょうか。

 政府が求める主な要件として、データを保存する地域を指定する「データレジデンシー」や、データに対して国の法令を適用する「データ主権」があります。 情報機関が扱うような機密データを保存するため、インターネットに接続していない安全な環境を求める政府機関に対しては、顧客のローカルデータセンターでGoogle Cloudの機能を提供できるGoogle Distributed Cloud Hostedを提供しています。我々はローカルとクラウド両方のソリューションを提供しており、多くの政府は個別のニーズを満たすために両方を選択しています。