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 カインズやワークマン、ベイシアなどを束ねる流通の巨人、ベイシアグループ。同グループ全体を取り仕切るのが、創業家2代目の土屋裕雅氏だ。カインズ会長であり、実質的なグループトップを務める。カインズでSPA(製造小売業)化を断行するなど、業界きっての改革派と知られる土屋氏。2018年には「IT小売業宣言」をぶち上げ、大胆なデジタル組織づくりを実行してきた。土屋会長が業績拡大の裏で虎視眈々(たんたん)と進めてきたグループDXへの足場づくり――。その覚悟を聞いた。

流通DXのトップランナー、ベイシアグループの全貌(5)より続く

(聞き手は浅川 直輝=日経コンピュータ編集長、鈴木 慶太=日経クロステック/日経コンピュータ)

土屋 裕雅 (つちや・ひろまさ)氏
土屋 裕雅 (つちや・ひろまさ)氏
1966年、ベイシアグループ創業者である土屋嘉雄氏の長男として群馬県伊勢崎市に生まれる。1990年に早稲田大学商学部を卒業後、野村証券入社。1996年にいせや(現ベイシア)入社、1998年にカインズ入社。2002年の社長就任を経て2019年3月より現職(写真:村田 和聡)
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2021年2月期にグループの売上高が1兆円の大台を超えました。ここまで成長できた理由をどう見ていますか。

 当社グループの強みは「商売人スピリッツ」を持っている従業員が多いこと。来店した目の前の顧客に、懇切丁寧に接しようとする姿勢は何よりも成長の原動力です。そして負けん気の強い社員が多い。

 当社グループの経営は「ハリネズミ経営」という呼び方をしています。各業界で他社を寄せ付けないほど「とがった」企業の集合体にするという意味で、各社には経営の自由度を持たせてグループとしてシナジーを出すよりも、互いが切磋琢磨(せっさたくま)する関係性を求めています。そういった意味で、グループ内競合も辞しません。一見、非効率ですがそこが1つの成長の原動力になっています。

2007年にはプライベートブランド(PB)の開発に舵(かじ)を切る「SPA宣言」を行い、2018年にはITを駆使する小売業に変貌する「IT小売業宣言」をしました。

 宣言シリーズとしてはその2つが有名ですね(笑)。SPA宣言は、メーカーから仕入れるナショナルブランド(NB)を売っているだけでは、いずれ安売り競争に巻き込まれて厳しくなるという危機感があり、そちら(SPA)に向かいました。

 IT小売業宣言についても、これからはデジタルを武器にしないと勝ち残れないのが見えていた。そっちに向かいたいというよりも、世界の小売業を見渡したときに、ある意味向かわされた感じがあります。幸いにもカインズをはじめベイシアグループはそういう変化に屈託なく付いていける変化に強い企業なので、ここまで成長できたのではないかと思います。

会社を大きく変革する際は、それぞれきちんとメッセージとして宣言するのですね。

 はい。ただ同じ2つの宣言でも、そこに至る経緯は全然違います。SPA宣言のときはすでに5年ほどPBの開発に取り組んでいて、ある意味退路を断つために宣言をしました。「この道を突き進んでもう戻ることはないよ」という、社員向けのメッセージです。

 「IT小売業宣言」についてはほんとに何もない状態だった。人材もいないし経験もない。でも世の中は間違いなくデジタルの方向に動いていて、我々も向かわなければならなかった。だからまず宣言をしてしまおうと。宣言したときは、社員も「IT小売業って何だ」という感じで、芯を食った感じはなかったです(笑)