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 このコラムはプログラミングを主なテーマにしている。いつもはコンピューターのプログラミングに関する話題を取り上げているが、今回はジャンルが違うプログラミングを紹介したい。「生物のプログラミング」だ。

 現在は新型コロナウイルス感染症が大きな注目を集めている。このウイルスについて正しく知るには、ある程度の生物学の知識が必要だ。これを機会に生物学について学んでみるのはいかがだろうか。

 過去の回で触れたことがあるが、私の大学での専攻は生物学である。研究分野は分子生物学、いわゆる遺伝子組み換えだ。大学院では、細菌の代表例として実験によく使われる大腸菌を材料に、DNA複製機構を研究していた。

 もっとも、研究者としては私は完全に落第だった。修士課程の2年生になると不登校気味になり、他の人が私の代わりにしてくれた実験のデータを論文の作製に使う体たらく。やっとのことで仕上げた修士論文を何とか認めてもらった。お世辞にも「修士号を持っている」と胸を張って言えるような経緯ではない。

 要するに研究者になる覚悟も能力も持ち合わせていなかったのだ。研究テーマは指導教官から与えられたものであり、自分で探すこともできなかった。研究者の入り口にすら立てなかったという思いがある。

 結局、就職の道を選んで日経BPに入社。当初はバイオテクノロジーや医療を扱う媒体に配属された。しかし、ITに適性があるのではないかと会社が判断し、IT系を中心とした媒体を転々として今に至っている。

昔は使いにくいはさみを使っていた

 遺伝子組み換えと聞くと、難しいことをしていたように思うかもしれない。しかし、基本的にはDNAを切ったりつないだりするだけだ。

 そのためにDNAを「切る道具」と「つなぐ道具」の2つを使う。私がつなぐ道具として使っていたのがDNAリガーゼ(単にリガーゼと呼ぶこともある)という酵素だ。おそらく、今でも同じ用途で使われているだろう。

 一方、切る道具として使っていたのが、制限酵素と呼ばれる一群の酵素だ。細菌に感染するウイルス(バクテリオファージ、略してファージ)のDNAを切断してウイルスの増殖を抑える酵素なのでこう呼ぶ。細菌はこうした酵素で自衛しているのだ。私は「EcoRI(エコアールワン)」や「HindIII(ヒンディースリー)」といった名前の制限酵素を使っていた。

 ここでDNAについて簡単に説明しておこう。DNAはデオキシリボ核酸(DeoxyriboNucleic Acid)の略。塩基、糖の1種であるデオキシリボース、リン酸の3つから成るヌクレオチドという物質が数多くつながった構造をしている。

 DNAを構成する塩基には、アデニン(A)、チミン(T)、グアニン(G)、シトシン(C)の4種類がある。つまり「A」「T」「G」「C」の4種類の文字を使って、DNAに遺伝子の情報が書き込まれている。

 AとT、GとCはそれぞれ水素結合でつながることができる。ある1本のDNAがあったとしよう。そのDNAのAをT、TをA、GをC、CをGに置き換えた別のDNA(相補鎖と呼ぶ)があれば、これら2つのDNAは塩基がすべて水素結合して安定した構造になる。これが有名な「DNA2重らせん」だ。生物が持つDNAは基本的にはこの構造を取っている。