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 インターネットでデータをやりとりしているのなら、Web3であってもネットワーク層のプロトコルにはIPを使っているはずだ。またイーサリアムのノード間通信では、トランスポート層のプロトコルとしてTCPベースの「RLPx」を利用している。こうしたことを知らずに書いているとしか思えない。

 もちろんWeb3の具体的な説明には正確な部分も多いだろう。しかし、著者の思い込みによる「オレオレ定義」や「オレオレ解釈」が随所にちりばめられているため、「本当にこの定義や解釈は正しいのだろうか」と読んでいて常に不安になってしまう。読者にそんな気持ちを抱かせている時点で書籍としては失格である。

 この出版社には、ネットワーク技術に精通した編集者もたくさんいるはずだ。この書籍は、そうした編集者の目の届かないところで出版されてしまったのだろう。ネットで話題になって初めてこの書籍を読み、腰を抜かさんばかりに驚いた編集者もいたに違いない。気の毒なことだ。

 結局、この出版社は2022年7月25日にこの書籍の販売終了と回収を発表した。

投機対象としての性格が強いNFT

 私は2022年5月中旬、日経クロステックでWeb3に関する特集を執筆・公開した。そのころは「Webの黎明(れいめい)期には従来のシステム開発エンジニアがWebを見下していたように、今のWebエンジニアがブロックチェーンに批判的なのには既視感がある」と感じていた。Web3にあえて「Web」とついているのは、こうした負の構造を引き継いでいることも理由の1つかもしれないと考えていた。

 というのは、Web3は未来への可能性を秘めているにもかかわらず批判されすぎではないかという思いがあったからだ。Web3分野では日本出身の若い起業家やエンジニアが奮闘している。その筆頭格が、独自のブロックチェーン「Astar Network(旧Plasm Network)」を開発するSTAKE TECHNOLOGIESの渡辺創太最高経営責任者(CEO)だ。

 残念ながら、彼らは現在は日本におらず、シンガポールやドバイ、欧州などで活動している。現在の日本の税制では、スタートアップがWeb3のトークンを保有するのは事実上困難だからだ。

 彼らを応援したいという気持ちは今でも変わらない。しかし、今回の書籍騒動をきっかけに「日本にとってWeb3は本当に必要な技術なのだろうか」という疑問がわいてきた。自分自身、知らず知らずのうちにWeb3を過大評価していたのではないかと思ったのだ。

 Web3が注目を集めた理由は、端的にいえば動いているお金が膨大だからである。