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 今回はとても扱いが難しいテーマを取り上げようと思う。ITと宗教についてだ。

 ある一般向けITサービスがある。これまで、複数のメディアがこのサービスを好意的に取り上げてきた。サービスの出来自体はよいようだ。運営会社の最高経営責任者(CEO)が持つ強い思い入れから開発されたサービスなのだという。

 ところが2022年9月初旬、このCEOがある新興宗教団体のエリート信者だとインターネット上で指摘された。

 こうした指摘に対し、サービス運営会社は抗議声明を公表した。声明の中で、CEOがそうした信仰を持っていること自体は認めた。そのうえで、サービスとその教団はまったく無関係であると主張し、人格権侵害、名誉や信用の毀損、業務妨害であるとしている。

 ただ、「無関係であること」を客観的に証明するのは難しい。このCEOは、信仰が自分の行動に強い影響を与えていることを過去に公言している。そうした人がつくったサービスが、果たして信仰と無関係だと言い切れるのか。

 少なくとも今のところは、このサービスの内容に何らかの宗教的な教義が関与しているようには見えない。だからといって、将来にわたってそうであるという保証はない。このCEOにしてみれば教えが広まることは正義であり、勧誘の入り口になることが本当にないのか、疑問はつきまとう。

 この件で特に問題視されているのが、このCEOがこの事実をこれまで隠していたように見えることだ。もっとも、「隠していた」のと「ただ公表していなかった」の区別は、思いのほか難しい。

 例えば、CEOが仏教徒やキリスト教徒であることをわざわざ公表する必要はあるかと考えると、そんな必要はないだろう。個人のプライベートだからだ。新興宗教の信者であっても、普通はそうしたことを積極的に公表したりはしない。