全2513文字
PR

 出向先の日本経済新聞社から日経クロステックに戻ってきた。出向していたのは、2020年4月から21年9月までのちょうど1年半だ。日経クロステックに再び配属されたので、この連載を再開することにした。

 新聞に出向していた期間は、ちょうど新型コロナウイルスの感染拡大時期と重なる。出向直後には緊急事態宣言が発令され、最初からほぼ2カ月間出社を禁じられた。右も左もわからない状態ですべての仕事を在宅でこなさなければならないのはかなりきつかった。

 ただ、自分が新聞記者として特筆すべき成果を上げられなかったのは、新型コロナのせいばかりではないだろう。そもそも新聞記者としての適性があまりなかった気がする。日経新聞の記者も日経BPの記者も外から見れば「日経の記者」だろうが、両者の間には想像していた以上の違いがあった。

 なかでも大きかったのが、記事のテーマに対する考え方の違いだ。日経クロステックでは、技術的に難しいテーマの記事を書くときは「できるだけ多くの人が理解できるようにわかりやすく解説しよう」と考える。これに対し、日経新聞ではそうしたテーマの記事を書くこと自体が難しい。

 理由は読者層の違いだ。日経クロステックの読者は、技術に何らかの関心を持っていると考えられるため、最低限の知識は持っていると想定できる。これに対し、新聞は何の知識も持たない一般の読者を想定する必要があり、難しすぎるテーマはそもそも取り上げられない。

 そうしたテーマの最たるものが「プログラミング」だ。新聞で取り上げられるプログラミングのテーマは、ノーコードやローコード、教育、記者の体験記くらいであり、具体的なプログラミングについて書く機会はほとんどないといっていい。

 結局、新聞記者としてやっていくには、技術重視の自分の思考を新聞流に切り替える必要があったのだろう。そうした切り替えが最後までうまくできず、納得できるような記事を書けなかったというのが偽らざる実感だ。

スクープを取ってこその新聞記者

 新型コロナの環境下では歓送迎会などの飲み会もままならず、1年半で3~4回程度しかなかった。その数少ない飲み会で、入社2~3年目の若い記者から「会社にプログラミングを学ぶように言われている」と聞いた。「取材もプログラミングもばりばりできる次世代型の記者」といったイメージなのかもしれない。

 一般論でいうと、ITにかかわる記事を書く記者であれば、プログラミングの知識はあるに越したことはない。ソフトウエアをどのように作るかを知っているかどうかで、記事の内容が変わってくる可能性がある。例えばシステム障害の記事などでも、より突っ込んだ取材や解説ができるようになるだろう。

 ただ個人的には、新聞記者にとってプログラミングを学ぶことの優先度は高くないと思っている。