今からちょうど14年前の2008年10月31日、「Bitcoin:A Peer-to-Peer Electronic Cash System」と題された論文が公表された。分散型のデジタル通貨、今でいうところの暗号資産である「ビットコイン」のアイデアが世に出た瞬間だ。この論文は「ビットコイン論文」や「ビットコイン・ホワイトペーパー」、あるいは著者のサトシ・ナカモト氏の名前をとって「ナカモト論文」とも呼ばれる。ブロックチェーンやWeb3の歴史は、すべてここから始まったといっていい。
この論文は、具体的にはデジタル通貨の「2重使用(多重使用)」という問題を解決する方法を説明している。2重使用は、同じデジタル通貨を複数の場所に送金できてしまう問題だ。例えば、100円しかないのに2つの異なる店舗でそれぞれ100円の製品を買えてしまう。銀行などの信頼できる機関が発行するデジタル通貨であれば、その機関が使用状況を把握し、2重に使われていないかどうかをチェックすることになる。
ところが、分散型のピア・ツー・ピア(P2P)ネットワークには、こうした「信頼できる機関」が存在しない。そこで、P2Pネットワークでも2重使用の問題が起こらないようにするために生み出されたのがブロックチェーンだ。
ただ意外なことに、この論文には「chain(連鎖)」や「block」という単語は出てくるものの、「blockchain(ブロックチェーン)」という用語は出てこない。ビットコインには、トランザクションのチェーンとブロックのチェーンという2種類の異なるチェーンの概念がある。混乱を避けるために「ブロックチェーン」という用語が使われるようになったのかもしれない。
この論文を基にしたビットコインの実装はオープンソースとして公開され、2009年にはビットコインの運用が始まる。2013年にはビットコインに次ぐ時価総額を持つ「イーサリアム」が登場し、Web3の各種サービスが生まれる母体になった。
インターネットは理論の登場から既に60年
14年前の2008年と聞くと、それなりに昔だと思うかもしれない。しかし、例えば米Google(グーグル)が設立されたのは1998年であり、2008年はそれから10年も後だ。Gmailの提供開始が2004年、Googleマップの提供開始が2005年、同社がYouTubeの買収を発表したのが2006年であり、いずれもビットコイン論文よりも前になる。
また米Meta Platforms(メタ・プラットフォームズ、旧フェイスブック)の設立は2004年、Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の提供開始は2006年だ。ブロックチェーンが誕生したときには、いわゆるGAFAの体制は既に出来上がっていた。
そう考えると、Web3がわずか14年間で今の姿にまで発展したのは驚異的なスピードではないだろうか。このことは、インターネットの歴史と比較するとより鮮明になる。
インターネットの理論的なアイデア、すなわちブロックチェーンでいうところのビットコイン論文に相当するものが何かを考えてみよう。インターネットの起源は、1969年に構築された「ARPANET(Advanced Research Projects Agency NETwork)」だとされている。ARPANETに影響を与えたアイデアは複数あるようだ。