それぞれ2019年5月と3月に株式上場を果たした、ライドシェア最大手の米ウーバー・テクノロジーズ(Uber Technologies)と第2位の米リフト(Lyft)。両社の株価はいまだにさえない。米証券取引委員会(SEC)に提出したS-1資料(証券登録届出書、開示書類)から、ウーバーが約3400億円、リフトが約1000億円の巨額の営業赤字であることが判明し、ライドシェアビジネスの行く末に疑問符が付けられているからである。これ以外にもさまざまな課題を内包しているのは事実だ。一方で「MaaS」という言葉こそ使わないものの、それに類するサービスを矢継ぎ早に打ち出し、さまざまな業界で「創造的破壊」を引き起こしている注目の存在であることに間違いはない。“ライドシェア後進国”日本にはあまり伝わってこない両社のサービス展開の実態を、日本企業の元駐在員でシリコンバレーに24年在住し、現在はリフトの運転手をしている吉元逸郎氏に解説してもらう。(内田 泰=日経 xTECH)
「吉元さん、今日、ウーバーのストライキがあるって知ってますか?」
ウーバーがニューヨーク証券取引所に株式上場する2日前の2019年5月8日の朝、知人から電話がかかってきた。
「お久しぶり。ライドシェアのスト、知ってますよ。今日は午前中、オフラインにして家でゴロゴロお休みしているんです」(筆者)
「ウーバー本社前で実際に生のストライキもやるみたいですよ。僕は今、向かっているところなんです」
「え~、そうなんですか、それじゃ私も参加します。では、現地集合で」(筆者)
ということで、怒っていると言えばチコちゃんなので、筆者は慌てて似たような絵を描いて持参。生まれて初めてストライキに参加した。
筆者作のチコちゃん風の絵には「ボーっと会社やってんじゃねぇ~よ! Chico will scold yoU」と書いた。ボーっとどころか、飛ぶ鳥を落とす勢いのウーバーだが、事業を支えているコントラクター(契約)のドライバーに対する支給額が年率約20%ずつ減っているのだから、チコちゃんに叱られるわけだ。
ストライキには、米国のさまざまなメディアも中継にやって来ていて数人からインタビューを受けたので、ドライバーの待遇改善に限らずアプリに存在する課題なども訴えた。「とにかく幹部はドライバーに会って現場の話を聞くように」と訴えたのだが、今の所、ウーバーから連絡は無い。
米国メディアが一斉にストの状況を報道したことがウーバーやリフトの株価低迷に一時的に影響を与えたのかもしれないが、労働組合もない契約ドライバーたちの結束は緩い。いっそドライバー全員が一斉にオフラインにしない限り、ストの効果は薄いと思われる。
ウーバーもリフトも上場前にSECに提出したS-1資料から、現状では巨額の営業赤字であることが明らかになった。さらに両社の事業を支えているドライバーの不満が鬱積(うっせき)するなど、経営には多くの課題を抱えている。一方で、日本や欧州で注目度が高まっているMaaS(Mobility as a Service:マース)系の先進的なサービスを次々に投入しているほか、「モノ」の移動に関するサービスも打ち出すなど、社会に大きなインパクトを与えている。米国市⺠にとって、もはや生活に不可欠な存在になりつつあるウーバーやリフトのサービス展開の現状を、具体的に見ていこう。