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 総務省でブロードバンドの「ユニバーサルサービス化」に向けた議論が進んでいるのをご存じだろうか。固定電話では、NTT東西の加入電話や第一種公衆電話、緊急通報を対象に離島や山間部をはじめとした不採算地域における赤字の一部を補填する「ユニバーサルサービス交付金制度」がある。これと同様、ブロードバンドについても不採算地域のサービス維持に向けた交付金制度を新たに創設しようというわけだ。

交付金の負担額は利用者への転嫁が濃厚

 総務省が2022年1月21日まで意見公募を実施している「最終取りまとめ案」によると、交付金制度の支援対象は、テレワークや遠隔教育、遠隔医療などを継続的・安定的に利用できる光回線サービスとCATVインターネット(幹線が光ファイバー、引き込み線が同軸ケーブルのHFC方式のみ)。無線ブロードバンドは通信速度や遅延、料金体系の面で必ずしも十分でない場合があり、わざわざ支援対象としなくても事業者間の競争を通じて全国的な整備が見込まれるので除外した。

 交付金の肥大化を防ぐため、支援対象の区域も限定する。サービスを提供するコストが高く、市場原理に委ねたのではサービスが維持されない可能性が高い地域を特定。さらに競争中立性を踏まえ、当該地域で有線ブロードバンドを提供する会社が1社であることを支援の条件とした。こうした仕組みにより、不採算地域におけるサービスの安定的な確保だけでなく、未整備地域の解消促進などにもつなげたい考えである。

 だが、肝心の負担額が全く見えていない。固定電話を対象とした現行の交付金制度は全国一律のサービスを維持するために必要な費用を通信事業者全体で負担する仕組みであり、この負担をユニバーサルサービス料として利用者に転嫁しているケースが一般的。2022年1月以降は電話番号当たり月額2.2円(税込み)の負担となっている。

 これに対してブロードバンドを対象とした新制度では「有線・無線を問わず、ブロードバンドサービスの提供事業者全般を負担対象者とする」とした。さらに「負担を利用者に転嫁するかどうかについては、各ブロードバンドサービス提供事業者の判断に委ねる」としており、転嫁が濃厚な気配である。各社の負担額はブロードバンドサービスの契約数に応じて算出するため、ブロードバンドの契約ごとにユニバーサルサービス料のような負担を新たに求められることになりそうだ。

 ただ最終取りまとめ案で負担額については「(総務省は)交付金額の総額と利用者1人当たりの負担額を試算し、本研究会(有識者会議)に対して報告するとともに、法案提出までのしかるべき時期において、公表すべきである」となっているだけである。これでは新制度の妥当性を判断できないような状況だ。