以前に本コラムで紹介した通り、2019年10月施行の改正電気通信事業法、すなわち携帯電話の通信料金と端末代金の「完全分離」を中心とした施策の効果や課題を検証する議論が総務省の有識者会議で進んでいる。2023年1月30日には2回目の関係者ヒアリングが実施され、早くも混沌とした様相を呈してきた。
MVNOは一律2万円の値引き上限を提案
2019年10月施行の改正電気通信事業法では、端末の購入を条件とした通信料金の割引を禁止し、通信契約とセットで端末を販売する際の値引きの上限を2万円(税別)とした。 しかし通信契約とひも付かない端末の単体販売に関しては値引きの上限が設けられていなかったため、これがスマートフォンの「一括1円販売」につながり、スマホを転売して稼ぐ「転売ヤー」問題に発展した。
携帯大手は2022年11月のヒアリングで、激しい競争環境下で一括1円販売をやめたくてもやめられないため「端末の単体販売にも値引きの上限を設定してほしい」と規制強化を提案していた。具体的には、中古スマホの販売価格や買い取り価格を参考に値引き上限を決めるものだ。
2回目のヒアリングでは、格安スマホを展開するMVNO(仮想移動体通信事業者)大手とその業界団体テレコムサービス協会MVNO委員会、中古スマホの流通事業者で構成する業界団体リユースモバイル・ジャパンが意見を述べた。
MVNOは総じて、端末の単体販売における値引きへの規制を強化すべきだとの主張を展開した。ただ携帯大手が提案していたような中古価格を参考にする手法ではない。インターネットイニシアティブ(IIJ)とオプテージは通信契約とのセット販売/端末の単体販売に関係なく、値引きの上限を一律2万円(税別)とすることを提案した。
MVNOにとって、携帯大手が提案している内容は規制の強化ではなく「緩和」と映っている。もともと完全分離は「通信料金収入を原資とする過度の端末代金の値引き等の誘引力に頼った競争慣行について2年をめどに根絶する」との狙いで導入が決まった。だが、結局は抜け穴を突かれて1円販売が復活した。この抜け穴をふさぐだけなので規制の強化とは到底言えないとの考えである。
むしろ、今回の議論で端末の単体販売における値引き上限を、中古価格を参考に決めることになれば、2万円(税別)以上の値引きを実質容認することにつながる。制度の本来の趣旨に立ち返ると、規制緩和に他ならないというわけだ。だからこそセット販売/単体販売を問わず、一律2万円の値引き上限を求めている。