公正取引委員会は「1円販売」をはじめとしたスマホの安値販売に関する緊急実態調査の結果を2023年2月24日に公表した。携帯大手がケータイショップを運営する販売代理店に対し「供給に要する費用を著しく下回る対価で継続してスマートフォンを販売することにより」、販売代理店と競争関係にあるスマホ販売事業者の事業活動を困難にさせる場合には、独占禁止法上問題(不当廉売)となる恐れがある、などと是正を求めた。
もっとも、総務省の有識者会議で議論となっている「どこまでの安値販売であれば許されるのか」の基準は一切示さなかった。公取委は報告書で「今後、独占禁止法上の問題について監視を強化するとともに、独占禁止法違反行為が認められた場合には厳正に対処する」と締めくくったが、実効性の面で物足りなさが残った。
ただ、緊急実態調査の結果は実に興味深い内容となっている。報告書では携帯4社をA~D社と表記して具体名を伏せたが、細部の説明から総合的に判断すると、単純にA社はNTTドコモ、B社はKDDI、C社はソフトバンク、D社は楽天モバイルとみられる。この点を踏まえ、改めて報告書の注目ポイントを見ていこう。
売れ筋スマホの半分近くは赤字
報告書によると、調査対象期間(2022年1月1日から6月30日)における携帯4社のスマホの販売台数は1233万5232台。OSごとの比率はiPhoneが51.9%、Androidが48.1%で、iPhoneの在庫不足もあってか拮抗した状態となっている。販路は販売代理店が87.6%、直営店が1.8%、オンラインショップが10.7%である。各社ともオンライン販売に力を入れるが、実店舗が依然として多い。
公取委は今回「1000円以下の販売」を「極端な廉価販売」と定義し、関東地方の店舗を手掛ける販売代理店279社に対して書面調査を実施した。対象機種はiPhoneとAndroidのそれぞれで販売台数の上位20位、売れ筋の計40機種である。調査対象期間における極端な廉価販売の比率は全体の14.9%だった。携帯4社の中ではC社が19.1%と最も高く、B社が14.2%、A社が13.8%、D社が11.0%と続く。OSごとの比率を見るとiPhoneの11.9%に対し、Androidのほうが19.9%と高かった。
値引き前の販売価格帯別の傾向を見ると「4万円未満」の低価格帯の割合が30.4%と圧倒的に高い。「4万円以上10万円未満」の中価格帯が15.6%で続き、「10万円以上」の高価格帯は1.6%にとどまった。販売区分別では「MNP(モバイル番号ポータビリティー)時販売」が33.6%と最も高く、以降は「新規契約時販売」が13.9%、「端末単体販売」が7.0%、「機種変更時販売」が5.0%となっている。
驚いたのは機種ごとの収支である。A~C社はiPhone/Android共に半分の10機種前後が赤字、新規参入のD社に至ってはiPhoneで20機種、Androidで17機種と大半が赤字だった。赤字の場合、A社は「通信料収入で補填」、B社は「通信料収入など個人向け取引で得られる収益全体で補填」、C社は「他の機種の販売、オンラインや直営店における販売の収入で補填」、D社は「通信事業も赤字のため、補填できていない」との回答だった。公取委は、スマホの販売収支の赤字を通信料収入などから補填するような販売方法は、独禁法上問題となる「供給に要する費用を著しく下回る対価」での供給に当たる恐れがあると指摘した。