KDDIとソフトバンクは通信障害時や災害時でも他社の携帯電話回線を使って音声通話・データ通信ができるデュアルSIMサービスの提供を始めると2023年3月27日に発表した。サービス名称は両社ともに「副回線サービス」で、提供開始はKDDIが3月29日、ソフトバンクが4月12日。NTTドコモも具体的な開始時期は示せないが、「できるだけ早期に提供を開始したい」としている。
KDDIが2022年7月に引き起こした大規模通信障害では61時間25分にわたって音声通話・データ通信が利用しづらい状況が続いた。携帯電話サービスは電気・水道・ガスと並び、生活に欠かせないライフライン。「保険」として今回の新サービスに契約しておけば、大規模災害などで副回線まで止まってしまわない限り、音声通話・データ通信を全く利用できない事態は回避できる。ただ現状では課題も多く、一般の消費者にどこまで広がるだろうか。
データ通信量は500メガバイト
新サービスはKDDIとソフトバンクがそれぞれ回線を融通し合うことで実現した。KDDIのサービスではソフトバンク回線を、ソフトバンクのサービスではKDDI回線を副回線に利用する。業界を挙げた取り組みとして認知度を高めるために同じ名称を採用したとしており、ドコモと協議が整った際も同じ名称のまま「ドコモ版」のような形で追加される可能性が高い。
サービスの主な仕様は両社でほぼ同じ。基本料は個人向けが月429円(税込み、以下同じ)、法人向けが月550円。個人向けは500メガバイト、法人向けは1ギガバイトのデータ通信量を含む。上りと下りの通信速度は個人向けが最大毎秒300キロビット、法人向けが同1メガビットとなり、上記データ通信量を超えた場合は同128キロビットに制限される。
音声通話料は30秒当たり22円、SMS送信料は1通当たり3.3円(全角70文字まで、受信は無料)となる。KDDIの2023年2月の決算説明会では基本料を安くする代わりに従量部分を少し高く設定するとの話も出ていたが、音声通話料やSMS送信料は通常プランと同じである。副回線は通信障害時や災害時に限らず、常時使えるようにした。
一般の消費者はこのサービス仕様を見てどのように感じるだろうか。少なくとも筆者は500メガバイトのデータ通信量に物足りなさを感じた。通信障害時や災害時は動画の閲覧を避けるとして、情報収集の過程で画像の多いサイトにアクセスしてしまうことも多いと思われ、500メガバイトではやや不安が残る。500メガバイトを超過しても通信自体は可能だが、最大毎秒128キロビットではかなり使いづらい。
もっとも、こうした制限を設けたのには理由がある。2022年7月のような大規模通信障害が発生してトラフィックが一斉に副回線に流れると、退避先までパンクして「共倒れ」となりかねないからだ。それでも通信速度は最大毎秒300キロビットなので1ギガバイト程度はデータ通信量を確保してほしかったが、欲張り過ぎだろうか。
「KDDIの大規模通信障害もあり、今回のデュアルSIMサービスは注目度と期待感が高まっていた。万一、爆発的に売れてしまった場合は障害時に数百万人もしくはそれ以上の規模のトラフィックが流れてくることになり、受けきれないリスクがつきまとう。まずは様子見で、あえてサービス仕様を抑えたのではないか」。ある有識者は両社の発表を受け、こう評した。