全1637文字
PR

 SIMカードを差し替えなくてもオンラインで携帯電話会社を変更できる「eSIM」の普及促進に総務省が力を入れている。2021年4月2日に意見募集を始めた有識者会議「スイッチング円滑化タスクフォース」の報告書案では、スマホ向けのeSIMについて「2021年夏ごろを目途として導入することが適当」と結論づけた。

格安スマホでも同時期に実現へ

 eSIMは欧米を中心に海外で利用が進んでいる。総務省が普及促進に力を入れるのは当然として、業界関係者が驚いたのは導入時期である。eSIMが一般に広がれば、海外旅行客や訪日外国人が入国時に契約を切り替えやすくなる。2021年夏の東京五輪・パラリンピックを見据えた判断とみられるが、やや性急な印象も受ける。議論の最中(2021年3月)に海外からの一般観客受け入れを断念することも決まった。

 確かにKDDIの「povo(ポヴォ)」やソフトバンクの「LINEMO(ラインモ)」もeSIM対応を開始し、下地は整いつつある。ただ、報告書案ではeSIMの提供を実現する機能(Remote SIM Provisioning、RSP)を、格安スマホを手掛けるMVNO(仮想移動体通信事業者)にも開放することを携帯大手に求めた。MVNOが携帯大手と「できる限り同じ時期に提供できる環境を整備することが適当」とした。RSP機能の提供に当たって付随するシステムの連携も進めるべきだと細かく注文を付けており、2021年夏ごろまでの実現となると、かなり大変そうである。

 もっとも、総務省が2021年夏ごろの導入にこだわった背景には別の狙いもありそうだ。例年秋には米Apple(アップル)がiPhoneの新版を投入する。同社はeSIMの採用に積極的なことで知られ、新版も対応が濃厚。2021年秋のiPhone商戦までにユーザーがeSIMで簡単に乗り換えられる環境が整えば、強力なMVNO支援となる。

 公正取引委員会もeSIMの機能開放に関心を示す。2021年3月30日に開いた携帯電話分野に関する意見交換会で独自のアンケート調査結果を公表。eSIMについて「利用していないが、今後利用したい」とする回答がMVNOの利用者で56.7%(携帯大手の利用者は40.0%)に達したことを挙げ、MVNOが携帯大手と同時期にeSIMを提供できない場合、「公正な競争環境を阻害するおそれがあるのではないか」とする論点例を示した。あの手この手で携帯大手に開放を迫る動きに映る。