全1731文字
PR

 総務省がここ数年で打ち出してきた数々の施策により、消費者は携帯電話会社を簡単に乗り換えられるようになった。以前のように契約期間を気にする必要はなく、解約金なしでやめられる。他社への同番移行(MNP)にも手数料がかからない。便利になったとつくづく感じるが、「ポートイン(転入)偏重」「一括1円販売」「転売ヤー」など新たな問題も生まれている。

 2019年10月施行の改正電気通信事業法は抜け穴を徹底的にふさぐ厳しいものだったにもかかわらず、結局は以前と同様、モグラたたきの状態が続く。「懲りない」と言えばそうなのだが、「やり過ぎた」と振り返る有識者もいる。改正法の施行からそろそろ3年を迎えるタイミングで根本から検証し直してはどうだろうか。

一括1円販売は「けしからん」

 このような考えを強くしたのは、日経クロステックでNTTドコモの井伊基之社長にインタビューしてからだ。冒頭の問題も携帯大手がポートイン偏重やスマートフォンの一括1円販売をやめればよいだけの話だが、そうもいかないという。

 最も大きな要因と考えられるのが総務省による乗り換え障壁(スイッチングコスト)の徹底排除である。契約期間の縛りや解約金なしでMNP手数料も無料となれば当然、ポートイン獲得競争に行き着く。携帯大手は「官製値下げ」でARPU(契約当たり月間平均収入)が減少し、ただでさえ苦しいのに、契約者までポートアウト(流出)となれば業績への打撃は大きい。競合他社の一括1円販売には対抗せざるを得ない。

 優等生のドコモは以前ならば、総務省の有識者会議で問題となった時点で自粛に動いていたかもしれない。だが「闘将」として知られる井伊社長は、「一括1円販売は違法行為ではない。キザにやらないという選択もあるが、やらないと(契約者を他社に)取られてしまう。(一括1円販売で)財務も痛むが、(回線契約を他社に)もっていかれるほうが痛い。だから戦うしかない」と言い切った。

 こうした状況のため、販売代理店の評価指標もおのずとポートイン偏重になる。大容量プランを重視した評価指標は「無理販(強引な販売)」につながるとして総務省の是正が入ったが、結局は「評価指標=営業戦略」なので注力分野のインセンティブ(報奨金)を手厚くする。今の局面ではまさにポートイン獲得であり、携帯通信料収入の減少が著しい状況ではオプションサービスの獲得なども重視することになる。