NTT持ち株会社がNTTドコモの完全子会社化を発表した。成否を問われるのはこれからだが、実に見事な一手だと感心している。
恥ずかしながら筆者は、持ち株会社がドコモのTOB(株式公開買い付け)という手段に出てくることを全く想定していなかった。法的には何ら問題ないとしても、過去の分離・再編の趣旨を踏まえると、持ち株会社によるドコモへの出資比率はむしろ減らしていくという認識だったからだ。
驚いたのは、総務省や公正取引委員会が1992年のドコモ分離や1999年のNTT再編の頃とは市場環境が大きく変わったとして、TOBをあっさり認めたことだ。霞が関や永田町には十分に根回ししていたはずなので当然かもしれないが、拍子抜けしてしまった。恐らく5年前であれば待ったがかかっていたのではないだろうか。
菅義偉内閣の発足直後と発表のタイミングが絶妙だ。持ち株会社とドコモは菅首相が携帯電話料金の引き下げに意欲を示していることと今回のTOBは直接関係ないとしたが、財務基盤が強固になって効率化を進められるので値下げにつながるという。さらに5G(第5世代移動通信システム)の次の通信方式である「6G」をはじめ、次世代インフラ構想「IOWN」の推進でメーカーを含めた日本の競争力強化に貢献していくとなれば、総務省も待ったをかけにくい。
最大手のドコモが携帯電話料金の引き下げで攻勢に出れば、KDDI(au)やソフトバンクは対抗せざるを得ない。菅首相もドコモが攻勢に出ると分かっていたからこそ、携帯電話料金の引き下げを掲げたような気がしてならない。
ギガホ/ギガライトの二の舞いも
組織体系の見直しで反転攻勢の下準備を整えたドコモだが、乗り越えなければならない課題は多い。
まず肝心となる料金の引き下げ。ドコモは2019年6月、政府の要請に応え、2500億円の減収を覚悟して新料金プラン「ギガホ」「ギガライト」を投入したが、当初想定していた競争力の強化には結びつかなかった。2020年3月期は解約率こそ0.03ポイント低下したものの、純増数は通信モジュールを除けばマイナス(純減)だ。新料金プランへの乗り換えが予想を下回り、減収影響は最終的に1800億円程度にとどまったとはいえ、成果があったとはとても言い難い。KDDIとソフトバンクのサブブランド攻勢が依然として続き、じりじりと弱体化が進んでいる。
持ち株会社はこの状況に危機感を抱いてドコモを完全子会社化するわけだが、競争力強化につながるような新料金の設計は容易ではない。これまでにない斬新なプランを投入したとしても、「ミート戦略」でKDDIやソフトバンクにすぐに追随される可能性が高いからだ。ドコモが長らくサブブランドに踏み切れなかったように、KDDIやソフトバンクがまねできない領域を見いださなければならない。他社を出し抜くのは至難の業であり、下手をすればギガホ/ギガライトの二の舞いで終わる恐れがある。