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 携帯電話網の大規模障害時に他社ネットワークを利用できるようにする「事業者間ローミング」の実現に向けた議論が総務省の有識者会議で進んでいる。もっとも、警察(110番)や消防(119番)といった緊急通報における呼び返し機能まで実装となると、開発期間は少なくとも3年程度かかる見通し。ローミング開始・終了の条件、救済する側の事業者の設備逼迫対策などの運用面で調整すべき点も多く、長期戦の様相を呈している。

 そんな中、KDDIの高橋誠社長は2022年11月2日の決算説明会で事業者間ローミングとは別に、1台の端末で複数回線を利用する「デュアルSIM」の実現に向けて他社と協議を開始したことを明らかにした。11月4日にはソフトバンクの宮川潤一社長が決算説明会で、高橋社長から直々に声がけがあったと説明。できるだけ早急に実現したいと意気込みを示した。競争を超えた協調に期待は高まるが、気になったのは実現方法である。

回線の相互融通で意外に安く実現?

 実現方法として真っ先に浮かぶのは、携帯各社が他社のMVNO(仮想移動体通信事業者)になる方法である。格安スマホ事業者のように他社の回線を借りて自社のサービスにバンドルする。

 ただ総務省のこれまでの議論を振り返ると、携帯大手が他社のMVNOになることを安易に認めるべきではないとする向きも多かった。設備投資のモラルハザード(倫理の欠如)につながりかねないからだ。例えば採算性が悪い地方部はMVNOサービスに頼り、設備投資を後回しにするといったことが起こり得る。実際、楽天モバイルの新規参入時にこの問題が指摘されたほか、ソフトバンクがイー・モバイルから回線を借りてデータ通信サービスを提供すると発表した際も物議を醸した。

 今回はあくまで緊急時の代替手段が目的だとすればこうした懸念は不要として、最大の問題となりそうなのが公正競争の観点である。

 KDDIが7月に引き起こした大規模通信障害を受け、格安スマホ事業者には追い風が吹いた。インターネットイニシアティブ(IIJ)は8月の決算説明会で2回線目需要が増え、事故直後に約8倍の申し込みがあったとした。KDDIが提供するオンライン専用ブランド「povo2.0」のように基本料が0円から利用できる携帯大手のサービスもあるが、格安スマホ事業者の小容量・低料金のサービスが見事にマッチした格好だ。こうしたビジネスが雲散霧消してしまう恐れがある。