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 格安スマホを手掛けるMVNO(仮想移動体通信事業者)が音声通話サービスの提供に当たって携帯大手に支払うレンタル料(音声卸料金)が約10年間にわたって見直されていない――。

 このような実態が総務省の有識者会議で明らかとなり、携帯大手3社が2021年4月までに音声卸料金を渋々と引き下げた問題。これで終わったわけではなく、そもそも事業者間の協議が有効に機能していないとして、適正化に向けた議論がその後も続いている。同議論がいよいよ大詰めを迎え、2021年12月下旬にも一定の結論が出る見通しである。

紛争処理は極力避けたいMVNO

 「協議で難航することはなく、追加的な義務やルールは不要」。総務省の有識者会議が2021年11月に実施した携帯大手3社へのヒアリングではこうした反論が相次いだ。余計な口出しはやめてほしいと言わんばかりの姿勢だった。

 ところが、12月3日に実施したMVNOの業界団体へのヒアリングで異なる実態が明らかになる。携帯大手には圧倒的な交渉の優位性があり、立場の弱いMVNOは事前相談の段階で難色を示されて協議に至らず、MVNOが提案を持ちかけても「公平な取り扱いの観点で個別の要望には応えられない」「実装がなく新たな対応となるとシステム面やセキュリティー面から困難」などと断られることがあるという。協議が成立しても実現までに時間がかかったり、情報の開示が不十分または消極的だったりする。MVNOの業界団体は「一定の規律を設けることが望ましい」と訴えた。

 総務省には事業者間の協議が不調となった場合に電気通信紛争処理委員会があっせん・仲裁する制度がある。MVNOの先駆けである日本通信が同制度を使い、「原価+適正利潤」の安価なレンタル料を勝ち取ってきた経緯がある。ただ、同社のような武闘派は少なく、紛争処理の活用は極力避けたいとするMVNOが多い。しかも解決までに半年から1年程度かかり、携帯大手に軍配が上がった場合のマイナス影響を考えると活用は難しいという。あくまで「最後の手段」との位置付けだ。紛争処理に持ち込まなくても、協議と提供条件の適正化が自律的に進むような制度整備が求められている。