NTTドコモが総務省の有識者会議でトラフィックポンピング問題への対処を要望している。聞き慣れない言葉だが、トラフィックポンピングとは音声通話のかけ放題を悪用して接続料を不正に搾取する行為を指す。過去にも事件として報じられたことがあるので筆者も認識はしていたが、「2014年にかけ放題のサービスを提供開始してから年々増えている。看過できない深刻な状況だ」(NTTドコモ経営企画部料金企画室長の大橋一登氏)という。
10倍や100倍に膨れ上がるトラフィック
音声通話は通信事業者がネットワーク設備を相互接続することで実現しており、着信側事業者は発信側事業者から接続料を徴収、発信側事業者はユーザーに通話料を請求する仕組みとなっている。
トラフィックポンピングはこの仕組みを悪用する。悪意のある事業者はドコモのかけ放題を悪用し、自社宛てに電話をかけまくるだけだ。2021年に明るみに出た事件では、大量のSIMカードを挿して電話をかける装置も押収された。
接続料は設備コスト(原価+適正利潤)/需要で決まり、NTT東西は「第一種指定電気通信設備」、携帯大手は「第二種指定電気通信設備」として規制の対象となっている。NTT東西は認可制、携帯大手は届け出制だが総務省の検証が入る。これに対して他の事業者は規制の対象になっておらず、各社が独自に算出した接続料に基づいて事業者間協議で合意しているという。
ドコモが問題視しているのは、こうした規制対象外の事業者の接続料原価に本来は除外すべき営業費用などが多く含まれているのではないかということだ。接続料を不当につり上げているからこそトラフィックポンピングが成り立ち、不正を仕掛ける強い動機につながっているとみている。2021年の事件では、逮捕者が「接続料の一部を着信手数料として還元される契約を結んでいた」と報じられた。トラフィックポンピングには第三者も関与し、こうしたインセンティブまで接続料に含まれている可能性がある。
ドコモはかけ放題を提供しているため、もともと他社に出ていく(発信側の)トラフィックが多い傾向にある。同社に入ってくる(受信側の)トラフィックと出ていくトラフィックの開きは通常、2~3倍程度だが、これが一部の事業者との間では10倍や100倍の規模にまで膨れ上がっているという。「さすがに怪しいとなるが、確たる証拠もない」(大橋氏)ので手出しできず、困っている。