「魔の3年の終わりがようやく見えてきた」―― 。ソフトバンクの宮川潤一社長がこう表現する通り、携帯大手3社は2021年の官製値下げの減収影響からいよいよ抜け出しつつある。2023年は競争激化につながる要素も見当たらず、強いて挙げれば「MNP(モバイル番号ポータビリティー)のワンストップ化」ぐらい。5G(第5世代移動通信システム)の普及拡大による成長を模索する1年となりそうだ。
YouTube効果でARPUが下げ止まり
携帯大手3社は官製値下げでARPU(契約当たり月間平均収入)の下落が続いていたが、足元では下げ止まりの兆しが出ている。NTTドコモは2022年7~9月期の「モバイルARPU」が4080円と、4~6月期の4030円から50円増加した。中大容量プランの契約数が順調に伸びており、同社の井伊基之社長は2022年11月の決算説明会で「トリガーは『YouTube』だと思う」との見立てを示した。エンターテインメント系に限らず映像をスマホで見る文化が広がっており、「4000円程度で下げ止まるのではないか」(同)とした。
実は、KDDIも2022年7~9月期の「マルチブランド通信ARPU」は3920円と、4~6月期の3970円から50円減少したが、7月に引き起こした大規模通信障害による返金の影響(60円)が大きい。これを差し引くと、実質10円の増加である。シティグループ証券アナリストの鶴尾充伸ディレクターは「今の伸びでいけば、NTTドコモとKDDIは2023年4~6月期か7~9月期に反転(前年同期比プラス)できるのではないか」と分析する。
携帯各社が期待を寄せるのは、5GによるARPUのさらなる押し上げだ。5Gの契約者は4Gに比べて利用トラフィックが多くなる傾向があるほか、今後は5Gの本命とされる「SA(スタンドアローン)方式」の本格展開が始まる。5G SAでは通信品質などの要件に応じてインフラを仮想的に分割する「ネットワークスライシング」や、ユーザーの最寄りで処理する「マルチアクセス・エッジ・コンピューティング(MEC)」などにより、追加料金を徴収しやすくなる。現状は不在のキラーコンテンツ/サービスを生み出せれば大幅な上積みもありそうだ。