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 該当する事例について、2018年秋にFXを取り扱う国内の主要ネット証券会社37社へ問い合わせたが、回答を得た11社のうち9社は「過去5年間はゼロ」との返答。2社は「年に数件あるかないか」とのことだった。

 2016年にも同様の調査をしたが、結果は概ね同じ。請求金額の多くは10万~数十万円という規模も変わっていない。過去の調査をさかのぼっても請求額は最大で120万円強という規模だ。見過ごせる額ではないものの、法外というほどの負債は発生していないようだった。

 可能性は低い。しかし、ゼロではない。だから、残された旦那さんの品々を徹底的に洗ってもらった。

 アクセスできるパソコンは、Webブラウザーのブックマークや履歴、メールの送受信履歴のほか、資産管理しているアプリやExcelのファイルなども探るように伝えた。同時に、金銭の動きからFX口座を突き止めるべく、旦那さんのメイン銀行とクレジットカードの取引履歴を可能な限りさかのぼることも助言した。

 FXの口座開設に関連した書類やカード類、開設前の検討で入手した紙のパンフレットなどが残されている可能性もあるので、郵送物にも再度目を通してもらった。

 その結果、パソコンのWebブラウザーには、過去1年間の履歴で証券会社へのアクセスが無く、検索ワードの履歴でも関連するものは見当たらなかった。メールソフトでも怪しいメールは皆無。メイン銀行の通帳やクレジットカードの取引履歴にも痕跡はなかった。証券会社からの支払い請求書ももちろん届いていない。

 ここまで調べて痕跡が見つからないのであれば疑念は相当小さくなったといえる。しかし、ゼロにはならない。元からへそくり目的だったとしたら、痕跡を隠しているかもしれないし、スマホだけで取引を完結していた可能性も否定できない。

 今後も万が一の請求に備えて無理のない範囲で注意しておくことで、相談者には一応の納得をしてもらうことになった。痕跡があれば該当する証券会社に問い合わせて解約手続きを進めればいいが、“無いことを証明する”という悪魔の証明が続く状況をすっきり解決するのはどうにも難しい。

 FXに関しては、実際の負債よりも負債について不安を感じる事例が圧倒的に多いのかもしれない。このように持ち主が何気なく放った言葉が遺族を苦しめることもあるのだ。

 様々な事情があるからすべてのデジタル情報を透明にしておくのは難しいだろう。ならば、口座情報を紙で残しておくなど万が一を想定した配慮はしておいたほうがいい。

古田 雄介(ふるた ゆうすけ)
1977年生まれ。建設業界と葬祭業界を経て2002年にライターへ転職し、テクニカル系の記事執筆と死の周辺の実情調査を進める。「古田雄介のアキバPick UP!」(ITmedia PC USER)、「インターネット跡を濁さず」(d.365)、「ネットと人生」(インプレス シニアガイド)などを連載。著書に「ここが知りたい! デジタル遺品」(技術評論社)、「故人サイト」(社会評論社)、「死とインターネット」などがある。