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 ChatGPTはAI(人工知能)の世界を一変させてしまったようだ。つい3カ月前まで、AIがデタラメな文章を出力するのはタブーとされていた。しかしChatGPTの登場以降、人々はAIの過ちに突然寛容になり、チャットボットAIが一気に社会に受け入れられようとしている。

 ChatGPTの勢いに火を付けたのは、米Microsoft(マイクロソフト)だ。同社は2023年1月16日(米国時間)にMicrosoft Azureで米OpenAI(オープンAI)の各種AIをクラウドサービスとして正式に提供し始め、同時にChatGPTもサービスとしてまもなく提供すると発表した。同社はChatGPTベースのBingもまもなく提供すると報じられている。

 チャットという非常に分かりやすいインターフェースで巨大言語モデルのパワーを活用可能にしたChatGPTは、登場するなり技術愛好家の間で一気に話題になった。そして巨大ITベンダーであるマイクロソフトが積極的な姿勢を見せたことで、一般の人々からも注目される存在になった。

 納得がいかないのは米Meta(メタ)だろう。メタは2022年11月に科学的な質問に答えられるAIの「Galactica」を公開したが即座に炎上し、公開停止を余儀なくされた。デタラメな内容を出力する恐れがあるのはChatGPTもGalacticaも、程度の差はあれど同じ。メタのAI研究責任者であるYann LeCun(ヤン・ルカン)氏は米メディアに対し「ChatGPTは特に革命的ではない」「同様の技術は米Google(グーグル)やメタだけでなく、複数のスタートアップが有している」などと発言し、ChatGPTを過度に持ち上げることに対して警鐘を鳴らしている。

2006年のクラウド、1995年のインターネット

 ChatGPTを巡る状況は、2006年ごろのパブリッククラウド、1997年ごろのLinux、1995年ごろのインターネット、1982年ごろのパソコンを取り巻く状況をほうふつとさせる。いずれも登場当初は「コンシューマー向けのおもちゃ」とされ、信頼できないと見なされていた。

 ルカン氏がどれだけ警告しようとも、ChatGPTやその後継の勢いは止まらないだろう。歴史は繰り返されるのが常だからだ。

 米国の報道によればグーグルもいよいよ「腹を決めた」ようだ。同社が2023年5月に開催するとみられる年次イベントの「Google I/O」では、ChatGPTのようなチャットボットAIのほか、(画像や文章などをつくり出す)さまざまな生成AIを搭載する製品やサービスが20種類も登場する見込みなのだという。

 グーグルはこれまで、巨大言語モデルや生成AIの技術を論文で発表する一方で、それらの技術を製品やサービスに搭載するのは消極的だった。同社がそうした方針を一変させた背景には、創業者であるLarry Page(ラリー・ペイジ)氏とSergey Brin(セルゲイ・ブリン)氏の復活があったと米紙ニューヨーク・タイムズが2023年1月20日(米国時間)に報じている。

 両氏は2019年にグーグルの親会社である米Alphabet(アルファベット)の常勤役員を退任しているが、2022年の暮れに開催された最高幹部による会議に参加。この会議で生成AIを搭載した製品を2023年に投入する方針が決められたのだという。

 ニューヨーク・タイムズの報道によればグーグルは、チャットボットAI機能を搭載した検索エンジンやテキストから画像を生成するツール、動画の背景をAIによって合成するツール、プログラムのソースコードを生成するツールなどを開発中とのことだ。5月のGoogle I/Oは近年まれに見る大盛り上がりのイベントになりそうだ。

 グーグルがチャットボットAIなどに消極的だったのには、大きく2つの理由がある。