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 チャットボットがいよいよ、会話の流れや一般常識を踏まえて発言できるようになった。米グーグル(Google)が2020年1月末に論文発表した「Meena(ミーナ)」だ。文章の内容が理解できるとして話題になった自然言語処理AI(人工知能)BERTでも使う「Transformer」という技術が進化の原動力となった。

 チャットボットは2016年ごろから企業での導入も始まっているが、これまではあらかじめ開発者の側で設定したパターンに当てはまる会話しかできないことが課題だった。パターンに無い質問が来ると、それっぽい応答をしてごまかすだけで、人間のような会話のキャッチボールをするのが難しかった。

 それに対してグーグルが2020年1月28日に公開した論文「Towards a Human-like Open-Domain Chatbot」で明らかにしたチャットボットのMeenaは、ソーシャルメディアなどで交わされる実際の会話データ341ギガバイト(GB)を、パラメーターの数が26億個も存在する巨大なニューラルネットワークに学習させることで、様々な分野の話題について人間のような会話ができるようになったのだという。

常識を持っているMeena

 例えばグーグルは、Meenaが以下のような会話を人間と交わしたとする。

人間:調子はどう?(How are things?)
Meena:とてもいいよ。あなたは?(They're good. How about you?)
人間:何を見ようか決めようとしているんだ(I'm trying to decide what to watch)
Meena:どんな番組が好きなの?(What are some of your favorite shows?)
人間:Good Place(米国のコメディードラマ)が好きだな(I like the Good Place)
Meena:それは見てないね。私が好きな番組はSupernatural(米国のサスペンスドラマ)とStar Trek: TNG(米国のSF)だね(I haven't watched that. My favorite shows are Supernatural, and Star Trek: TNG.)
人間:TNGって何?(What is TNG?)
Meena:The Next Generation.

 ここでのポイントは、Meenaがテレビ番組に関する会話を人間と続けたことに加えて、会話で出てきた「TNG」という単語について、それが「The Next Generation」の略称だと答えられたことだ。それまでの会話の流れを把握する能力と、テレビ番組に関する常識の両方を備えているのが分かる。

 グーグルが同論文で示した他の会話では、人間から「オスカー(アカデミー賞)にノミネートされた映画でお薦めはない?」と聞かれたMeenaが「グランド・ブダペスト・ホテルはどう?」と返答し、さらに人間に「それはどんな映画」と聞かれたところ、「監督・脚本はムーンライズ・キングダムと同じウェス・アンダーソンで、ファニーでカラフルな映画を制作することで有名だよ」と答えたのだという。映画に関する豊富な知識を備えていることがうかがえる。

ボケまくるMeena

 チャットボットというとジョークがよく話題になる。従来のチャットボットのジョークは決められた小話を披露するだけだが、Meenaの場合は漫才のような応酬のあるジョーク(マルチターン・ジョーク)ができるのだという。

 論文で示した例では、人間が「牛は賢いんだよ」とボケると、Meenaは「牛は大学に行くらしいね」と返し、人間が「牛が大学へ行くの?」と驚くと、Meenaは「ハーバード大学(Harvard)に行ったらしいよ」とさらにボケ、続けて人間が「(牛は大学で)何を研究したの?」と聞くとMeenaは「牛科学(Bovine Science)」と言ってのけた。なかなかのセンスである。

 もっとも残念なことに「オチ」だけは、筆者には何が面白いのか分からなかった。最後に人間が「馬もハーバード大学に行くの?」と聞くと、Meenaは「馬が行くのはヘイバード(Hayvard)」と答えたのだという。論文で紹介されている会話によれば、それに対して人間は「いいジョークだね」と満足したことになっているのだが、この人間の感性はよく分からない。