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 米アマゾン・ドット・コム(Amazon.com)がついに、レジ無し店舗「Amazon Go」の技術を外販し始めた。高級食品スーパーの「Whole Foods Market」を買収するなど実店舗にも力を入れるアマゾンが、虎の子ともいえる技術を外部に提供するのは世間に驚きを与えた。しかし同社のジェフ・ベゾスCEO(最高経営責任者)の言動などを踏まえると、これが必然だったことが分かる。

 まずはアマゾンが2020年3月9日(米国時間)に発表した「Just Walk Out」という新商品の概要を振り返っておこう。これはアマゾンが2018年から展開するレジ無しコンビニエンスストアAmazon Goで使う技術を他の小売店に提供するもので、センサー技術やディープラーニング(深層学習)ベースのAI(人工知能)などのソフトウエアが含まれる。

Amazon.comのアカウントは不要

 Just Walk Out(ただ歩いて出るだけ)がもたらす顧客体験とはこのようなものだ。客はまずJust Walk Outを導入した小売店の入り口で、クレジットカードをスキャンする。そして店内で商品を選んだら、それを手に取って店から出るだけで精算が完了する。レシートが必要な客は店内のキオスク端末でメールアドレスを登録すると、レシートが電子メールで届く。

 アマゾンが展開するAmazon Goの場合、客はAmazon.comのユーザーアカウントが必要で、入店時にはアマゾンのスマホアプリを入り口のスキャナーにかざす必要があった。それに対してJust Walk Outの導入店舗ではAmazon.comのアカウントは必要ない。アマゾンがクレジットカードとメールアドレスをひも付けるため、客は別のJust Walk Out導入店舗で同じカードを使って買い物をすると、登録した電子メールアドレスにレシートが届くようになる。

 アマゾンのJust Walk Outは、いわゆるソリューションとしての提供になるようだ。導入を希望する小売店にはアマゾンの技術者がやってきて、カメラなど必要なセンサーの設置場所を検討してくれるし、導入後にレジ無しの仕組みがうまく働かなかった場合のサポートサービスもアマゾンが小売店に提供する。小売店側に技術力が無くても、レジ無し店舗を導入できるというわけだ。

 現時点でJust Walk Outの導入店舗は、世界に1カ所だけ存在する。米国の空港で売店やレストランを展開するOTGという会社が2020年3月16日、ニューヨークの近郊にあるニューアーク・リバティー空港のターミナルCに、Just Walk Outを導入した空港売店「CIBO Express Gourmet Markets」をオープンした。客は飲み物や軽食を買うのに、レジに並ぶ必要がなくなった。OTGは同空港のほかニューヨークの空港で主に国内線を担うラガーディア空港にもJust Walk Out導入売店を展開する予定だとする。

「株主への手紙」にヒントが

 レジ無し店舗技術の外販がなぜアマゾンにとって必然だというのか。ベゾスCEOが毎年4月に発表する「株主への手紙」にそのヒントがある。

 「1999年:3%」「2000年:3%」「2001年:6%」「2002年:17%」(中略)「2014年:49%」「2015年:51%」「2016年:54%」「2017年:56%」「2018年:58%」――。ベゾスCEOが2019年4月に公表した株主への手紙の冒頭には、こんな数字が並んでいた。

 これはアマゾンにおける商品販売総額(デジタル商品は含まず)に占める外部事業者(サード・パーティー・セラー)の販売額の割合を示したものだ。アマゾンは1994年の創業から5年後に当たる1999年から、外部事業者がアマゾンのサイト上で商品を販売できるAmazon Marketplaceの取り組みを始めている。当初は3%にすぎなかった外部事業者による販売額の割合は年を経るごとに高まり、2015年には5割を超え、2018年には58%にまで達した。つまり現在、外部事業者が出品した商品のほうが、アマゾン自身の販売する商品よりもアマゾンのサイト上で売れているということだ。