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 新型コロナウイルスの感染拡大の中で、Amazon Web Services(AWS)の堅固さが印象的だ。競合がクラウド需要の急増を警戒して「新規利用できない場合がある」などと予告しているのに対して、AWSはテレワークや新薬開発など新型コロナ関連のニーズを積極的に取り込む姿勢を見せている。

 世界的なテレワークへの移行に伴い、AWSの需要が急増しているのは間違いない。例えばビデオ会議。AWS自身が提供するビデオ会議サービスであるAmazon Chimeは全く話題になっていないが、2019年12月時点の1000万ユーザーが2020年3月には2億ユーザーにまで急増したZoomのバックエンドをAWSが支えている。都市に出られなくなった市民の娯楽を支えているNetflixもインフラはAWSだ。

 それでもAWSは新規需要に対して積極的な姿勢を貫く。テレワークをこれから始めるという中小企業を支援するために、仮想デスクトップサービスのAmazon WorkSpacesの新規顧客に対して2020年6月30日まで最大50ユーザー分を無料で提供するほか、新型コロナの治療などに取り組む組織向けに2000万ドル(20億円)分の無料利用枠を提供するなどとした。

最大のライバル、マイクロソフトはユーザーに警告

 こうしたAWSの姿勢は、クラウド市場における最大の競合である米マイクロソフト(Microsoft)とは対照的だ。マイクロソフトも新型コロナと戦うNPO(非営利組織)に対してMicrosoft Azureの無料枠を提供するといった取り組みを発表しているものの、一般顧客に対しては警告を発しているのだ。

 マイクロソフトは米カリフォルニア州などで都市封鎖が始まった2020年3月21日(米国時間)に、クラウド需要が急増してAzureのキャパシティーが逼迫した場合の判断基準(クライテリア)を発表している。それによればあるリージョンのキャパシティーが逼迫して仮想マシンの新規利用を受け付けるのが難しくなった場合には、医療機関や重要な政府機関、社会インフラ企業、ビデオ会議ツールのTeamsなどテレワークに不可欠なツールの利用を最優先する。それ以外の企業や組織は当該リージョンで、仮想マシンの追加などができなくなる。

 既存顧客の仮想マシンが強制遮断されるわけではない。それでも平常時に提供している無料枠などがなくなるほか、新規顧客の受け付けも制限される。マイクロソフトは顧客に対して、他に余裕のあるリージョンがあればそちらを案内するとしている。

「スポットインスタンス」の価格に注目

 マイクロソフトのような警告をユーザーに発していないAWSだが、実際にそのキャパシティーはどれぐらい盤石なのだろうか。筆者はそれを測るために、AWSが提供する「スポットインスタンス」の価格に着目してみた。

 スポットインスタンスとは、Amazon EC2で使われていない仮想マシンをユーザーが入札形式で利用できるという仕組みだ。正規料金に比べて最大9割安く仮想マシンが使える代わりに、仮想マシンの「時価」が入札価格を上回った場合や、正規料金で利用するユーザーが増えてリソースの余剰がなくなった場合には、仮想マシンが強制停止される。

 AWSに対する需要が増えて使われていない仮想マシンが減ると、スポットインスタンスの価格が上昇する。需要がさらに増えた場合は、スポットインスタンスに使われていた仮想マシンが強制終了され、正規料金を支払うユーザーに回される。平常時はリソースを安く使える手段として、AWSのキャパシティーが逼迫するような非常時には、正規料金を支払うユーザーに悪影響を与えない仕組みとして機能するわけだ。

 保守的なユーザー企業だと「強制停止されるような仮想マシンは怖くて使えない」と考えそうだが、米国の金融機関や映像制作会社など技術力の高い企業にとっては、スポットインスタンスは非常に人気の高いサービスなのだという。金融リスク計算などに使用する分散処理ソフトウエアの多くが、クラスター内のマシンが停止した場合でも、他のマシンに処理を引き継げるようになっているためだ。

 実際にスポットインスタンスの価格推移を調べてみると、米国のリージョンなどで新型コロナの感染拡大に伴い、その価格が上昇しているのが確認できた。例えばAWS最大の「バージニア北部」リージョンにおいて、最も汎用的な仮想マシンである「M5インスタンス」のスポットインスタンス価格が2020年2月後半からじわじわ上昇しているのだ。

過去3カ月間のスポットインスタンス価格の推移
過去3カ月間のスポットインスタンス価格の推移
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