全2471文字
PR

 クイズです。生成AI(人工知能)、核融合発電、量子コンピューターという「2023年版テック業界バズワード」と言うべき3つの領域の全てに深く関与している、まだ30代の若手経営者とは誰でしょうか――。

 答えは米OpenAI(オープンAI)のCEO(最高経営責任者)、Sam Altman(サム・アルトマン)氏である。1985年生まれの38歳だ。ChatGPTを世に送り出して世界中から注目されているアルトマン氏だが、核融合発電や量子コンピューターにも深く関わっている。

核融合発電スタートアップに個人で3億7500万ドルを出資

 核融合発電スタートアップの米Helion Energy(ヘリオン・エナジー)は2023年5月10日(米国時間)、米Microsoft(マイクロソフト)と電力供給契約を締結したと発表した。2028年までにヘリオンが核融合発電所を稼働して、それから1年以内に50メガワット(MW)以上の電力を起こし、その電力をマイクロソフトに供給するとの内容だ。

 このヘリオンにはアルトマン氏が個人で出資するほか、アルトマン氏が社長を務めていたアクセラレーター(起業家育成組織)の米Y Combinator(Yコンビネーター)も出資する。米メディアのCNBCによれば、アルトマン氏によるヘリオンへの出資額は3億7500万ドルにもなるという。

 米エネルギー省は2022年12月に、同省傘下のローレンス・リバモア国立研究所が核融合の実験において世界で初めて、投入量を上回るエネルギーを取り出すことに成功したと発表した。しかし商用化の時期はまだ定かではない。ヘリオンが掲げる2028年に核融合発電を商用化するとの目標は相当に野心的だ。

 そのため米メディアはヘリオンとマイクロソフトの契約について報じた際に「マイクロソフトがオープンAIに続いて、アルトマン氏の野心的な取り組みに資金を賭けた」と報じた。核融合発電の商用化については半信半疑ではあるものの、AIの風景を一変させたマイクロソフトとアルトマン氏の組み合わせだけに、注目せざるを得ないというスタンスだ。

アクセラレーターの方針を大転換させたアルトマン氏

 もう1つの量子コンピューターだが、こちらは超電導方式の量子コンピューターを開発する米Rigetti Computing(リゲッティ・コンピューティング)に対して、アルトマン氏が社長を務めていた時代のYコンビネーターが出資している。リゲッティはYコンビネーターの「卒業生」でもある。

 Yコンビネーターは決済の米Stripe(ストライプ)や民泊仲介の米Airbnb(エアビーアンドビー)、クラウドストレージの米Dropbox(ドロップボックス)といったインターネット系、ソフトウエア系のスタートアップを多数輩出したことで知られる。

 2014年2月、そのYコンビネーターの社長にアルトマン氏が就任すると、同社は注力する分野を大きく転換した。

 アルトマン氏は社長就任直後の2014年3月に「ブレイクスルーテクノロジーのスタートアップ募集(New RFS -- Breakthrough Technologies)」と題するブログ記事を発表。YコンビネーターがエネルギーやAI、ロボティクス、バイオテック、ヘルスケア、食料と水、教育、インターネットインフラストラクチャー、交通や住宅といった領域のスタートアップを支援すると宣言した。