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 ソフトバンク・ビジョン・ファンドが量子コンピューターのスタートアップに出資する。相手はイオントラップ方式のハードウエアを開発する米IonQ(イオンQ)だ。既に実機をクラウドで提供し、汎用量子コンピューターの実現に関して野心的な目標を掲げるイオンQの特徴などを解説しよう。

 イオンQは2021年6月3日(米国時間)に、ソフトバンク・ビジョン・ファンドを管理するソフトバンクグループ子会社、英SoftBank Investment Advisers(ソフトバンク・インベストメント・アドバイザーズ)と提携したと発表した。ソフトバンク・ビジョン・ファンドがイオンQに出資するほか、提携を通じてファンドの出資先などにイオンQの量子コンピューター関連ソリューションを提供するという。

 イオンQは米メリーランド大学のChristopher Monroe(クリストファー・モンロー)氏と米デューク大学のJungsang Kim(ジュンサン・キム)氏という2人の量子コンピューター研究者が2015年に起業したスタートアップだ。

 同社が開発するのは、米Google(グーグル)や米IBMが開発するのと同じ、様々なアルゴリズムが実行できる量子ゲート型の量子コンピューターである。グーグルやIBMのハードウエアが超電導方式であるのに対して、イオンQはイオントラップ方式であるところが異なる。

 イオンQのイオントラップ(捕捉イオン)方式は、真空中に並べたイオンによって量子ビットを作る。そしてこのイオン列にレーザーを照射することで、光子によって量子ビットを相互結合し、量子ビット間の「量子もつれ(エンタングルメント)」などを操作する。

 イオンQの量子コンピューターは既に、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)の「Amazon Braket」や米Microsoft(マイクロソフト)の「Azure Quantum」といったクラウドサービスで利用できる。

量子ビットは全結合

 AWSの日本法人であるアマゾンウェブサービスジャパンの宇都宮聖子シニア機械学習ソリューションアーキテクトは「すべての量子ビットを結合できる点や、量子ビットのフィデリティー(忠実度)が均一である点がイオンQの特徴」と説明する。

 Amazon Braketでは量子ゲート型の量子コンピューターとして、イオンQだけでなく米Rigetti Computing(リゲッティコンピューティング)の超電導方式のハードウエアが利用できる。量子ビットの数でいうと、リゲッティのハードが最大32量子ビットであるのに対して、イオンQは11量子ビットと少ない。

 しかしリゲッティのハードは量子ビットが隣り合うものとだけ結合しているのに対して、イオンQは全量子ビットが1対1で結合している。そのため「量子ビットの少ないイオンQだが、解ける問題の幅はリゲッティよりも広い」(宇都宮氏)という。

 イオンQのもう一つの特徴であるフィデリティーの均一さとは、量子ビットによってエラー率などにバラつきが無いことをいう。超電導方式の場合、デバイスの製造誤差によって量子ビットの品質にバラつきが生じることがある。これは現在の半導体チップでも同じだ。同じ製造ラインで作ったCPUであっても、個体によって品質に差があり、品質が低いと動作周波数が低くなったりプロセッサーコアが少なくなったりする。

 実際にAmazon Braketで利用できるイオンQのトポロジー(量子ビットの結合状態)を見てみると、きれいに相互結合している。

Amazon Braketで利用できるIonQのトポロジー
Amazon Braketで利用できるIonQのトポロジー
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 それに対してリゲッティにはバラつきがある。リゲッティの「Aspen-8」というハードは、本来32量子ビットがあるチップなのだが量子ビットが1個欠損している。また「Aspen-9」というハードは、量子ビット間の結合が2カ所で欠損している。こうした個体差はソフトウエア側の工夫で補う必要がある。

Amazon Braketで利用できる「Aspen-8」のトポロジー
Amazon Braketで利用できる「Aspen-8」のトポロジー
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Amazon Braketで利用できる「Aspen-9」のトポロジー
Amazon Braketで利用できる「Aspen-9」のトポロジー
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