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 ディープラーニング(深層学習)によって開発されたAI(人工知能)が、IT技術者の仕事を次々と奪おうとしている。AIを開発する仕事が米グーグル(Google)のAutoMLなどによって自動化されているのは既報の通りだ。ここに来てグーグルや米フェイスブック(Facebook)が、「半導体チップを設計する」「プログラムを変換する」といった仕事を深層学習ベースのAIによって置き換える取り組みを論文で発表している。

 半導体チップを設計するAIはグーグルが2020年4月に公開した論文「Chip Placement with Deep Reinforcement Learning」で、プログラムを変換するAIはフェイスブックが2020年6月に公開した論文「Unsupervised Translation of Programming Languages」でそれぞれ発表している。

「ルールベース」でも「教師あり学習」でもない

 半導体チップの設計自動化ツールやプログラムの変換ツールは昔から存在する。しかし既存のツールが半導体設計やプログラム開発に関する「人間の知見」に基づいて開発されているのに対して、グーグルやフェイスブックが開発したAIは、人間の知見をほとんど使っていない点が大きな違いと言える。

 具体的には、グーグルの半導体チップの設計AIは「深層強化学習」によって、フェイスブックのプログラム変換AIであるTransCoderは「教師無し学習」によって開発されている。人間の知識に基づいて人間がルールを開発する「ルールベースのAI」ではないだけでなく、人間が機械に正解を与える「教師あり学習」ですらない。

 それぞれのAIをもう少し具体的に見ていこう。

数週間の設計作業を6時間に短縮

 グーグルが開発した半導体チップの設計AIは、NANDゲートやNORゲートといったスタンダードセルや、メモリーやCPUコアなどのマクロセル、それぞれのセルを接続するネットリストなどのチップ上における位置や構成を自動的に決めるものである。

 グーグルによればこのAIは、グーグルが機械学習用に独自開発したチップであるTPUなどの設計に利用できるほか、一般的なASICの設計にも適用可能だという。半導体設計のプロが既存の設計自動化ツールを使って数週間かけて設計したものと同程度かより良いデザインを、グーグルのAIはわずか6時間で設計できたと主張している。

 グーグルは半導体チップの設計AIを、深層強化学習によって開発した。強化学習とはコンピューターが試行錯誤を繰り返すことで、より良いやり方を学習していく手法であり、それに深層学習を組み合わせた。囲碁の世界チャンピオンに勝ったAlphaGoの開発などに使われた手法だ。深層強化学習においては、試行錯誤した結果に対する評価基準(報酬)を人間が決める必要があるものの、教師データなどは用意する必要はない。

自然言語翻訳をプログラム変換に応用

 フェイスブックが開発したプログラム変換AIのTransCoderは、JavaやC++、Pythonのプログラムをそれぞれ交互に変換する。同種のツールが多数ある中での最大の違いはTransCoderが教師無し学習によって開発され、「既存のルールベースで開発された商用ツールを上回る変換精度を実現した」(同論文)という点だ。