クラウド市場で追い上げを図る米Google(グーグル)にとって、ターニングポイントがやってきた。独Deutsche Bank(ドイツ銀行)は2020年7月7日(現地時間)、Google Cloudを複数年契約で利用することでグーグルと合意したと発表した。グーグルはドイツ銀行の金融デジタル化も支援するという。
米ブルームバーグ通信は複数年契約の期間について「最長で10年」と報じている。ドイツ銀行はこの間に順次、既存の情報システムをGoogle Cloudへ移行する。銀行のシステムをパブリッククラウドに移行するに当たってはプライバシー保護やデータ保護に関する規制をクリアする必要があるが、そうした規制の順守は両社で取り組むとした。
マイクロソフトやAWSとのコンペだった
ドイツ銀行は2020年2月に「複数の主要クラウドサービス事業者を招いて提案を募った」(プレスリリース)。英ロイター通信はそのクラウド事業者が米Microsoft(マイクロソフト)、米Amazon Web Services(アマゾン・ウェブ・サービス、AWS)、グーグルの3社だったと報じている。この3社のコンペでグーグルが勝ったことになる。
ドイツ銀行は2015年2月に当時の米Hewlett-Packard(ヒューレット・パッカード)との間で、ITインフラストラクチャーに関する10年間のアウトソーシング契約を結んでいる。つまりこれまで米Hewlett-Packard Enterprise(ヒューレット・パッカード・エンタープライズ)が担ってきたドイツ銀行のITインフラがGoogle Cloudに移行することになるわけだ。
グーグルはドイツ銀行によるAI(人工知能)などを活用した次世代の金融商品の開発も支援する。ドイツ銀行は例として、企業の財務部門向けに提供するキャッシュフロー予測やリスク分析、口座のセキュリティーを保護するアプリケーションなどを挙げている。ドイツ銀行の富裕層向けプライベートバンキング部門における顧客対応などにもAIを活用する。
デジタル変革の支援込みでクラウドの複数年契約を結ぶ手法は、クラウド分野では定番となっている。競合のマイクロソフトは世界最大の流通企業である米Walmart(ウォルマート)と5年契約の、エネルギー大手である米Chevron(シェブロン)とは7年契約のクラウド利用契約を結んでいる。2019年1月に米Oracle(オラクル)出身のThomas Kurian(トーマス・クリアン)氏がGoogle CloudのCEO(最高経営責任者)に就任して以来、エンタープライズ営業を強化してきたグーグルにとって、競合に比肩できる顧客事例がようやくできたと言える。