米Google(グーグル)のクラウド事業部門Google Cloudの損益がここに来て大きく改善している。2021年4~6月期における営業損失は5億9100万ドルで、前年同期の14億2600万ドルに比べて8億3500万ドル減少した。赤字が減ったのは大きな進展だが、決算からは厳しい内情も見えてくる。
2021年4~6月期におけるGoogle Cloudの売上高は46億2800万ドルで、前年同期に比べて53.9%増加した。売上高が16億2100万ドルも増えた一方で営業費用は8億ドルほどしか増えなかったため、営業損失が8億3500万ドル減った。前期である2021年1~3月期をみてもGoogle Cloudの営業損失は9億7400万ドルで、前年同期に比べて7億5600万ドル減っている。2四半期連続で前年同期に比べて営業損失が大きく減少した。
ハードの耐用年数を延ばして、営業損失を縮小
2021年に入ってGoogle Cloudの損益が改善した背景には、「奇策」ともいえる意外なカラクリがあった。親会社の米Alphabet(アルファベット)が発表した決算資料「10-Q」によれば、同事業の営業費用が増加するのを抑えられた主たる要因として、Google Cloudが使用するサーバーやネットワーク機器の耐用年数の変更を挙げる。
具体的には2021年1月から、サーバーの耐用年数を従来の3年から4年に、ネットワーク機器の耐用年数を従来の3年から5年に変更した。耐用年数を伸ばすと、営業費用に計上する必要がある減価償却額が減る。実際には2021年1~3月期に8億3500万ドル、21年4~6月期には7億2100万ドル営業費用が減少した。
実は競合の米Amazon.com(アマゾン・ドット・コム)や米Microsoft(マイクロソフト)も2020年に、サーバーやネットワーク機器の耐用年数を見直している。アマゾンは2020年1~3月期にサーバーの耐用年数を3年から4年に変更しており、これによって四半期の営業費用が7億8600万ドル減ったとしている。マイクロソフトも2020年7~9月期にサーバーの耐用年数を3年から4年に、ネットワーク機器の耐用年数を2年から4年に変更し、これによって四半期で営業利益が9億2700万ドル増えたとする。
各社とも同様の奇策で営業費用を減らしたわけだが、とりわけGoogle Cloudにとってはインパクトがあった。Google Cloudの営業損失は2018年1~12月期が43億4800万ドル、2019年1~12月期が46億4500万ドル、2020年1~12月期が56億700万ドルであり、3年間だけで146億ドルにも達した。「Google Cloudは事業として継続可能なのか」との懸念を払拭するためにも、損益を改善させる必要があった。
「成果報酬」を積んで大口顧客を獲得
決算資料は、Google Cloudでいまだに赤字が続いている理由も明示している。売上高が年率50%以上増加しても「Compensation Expenses」、つまりは営業担当者向けの報酬が増え続けているため、増収効果を相殺しているとした。
本コラムでも何回か取り上げてきたが、グーグルは2019年から米Oracle(オラクル)の元幹部だったThomas Kurian(トーマス・クリアン)氏をGoogle Cloudのトップに据え、オラクルや独SAPの出身者などを採用して法人営業体制を強化してきた。直販営業部隊の人員も3倍に増やした。
直販営業部隊が目指したのは、大手顧客から複数年の大型契約を獲得すること。その際には顧客に将来の分も含めてクラウドの利用量について「コミットメント(約束)」させる。顧客が将来支払う見込みのクラウド利用料金は、決算資料の受注残(Remaining Performance Obligations、RPO)に計上される。
アルファベットが決算資料に記載するRPOのほとんどはGoogle Cloudに関連するもので、その金額は近年、急速に増加した。同社がRPOを開示し始めたのは2019年10~12月期で、2019年12月末時点のRPOは114億ドルだった。それが2020年3月末時点で128億ドル、20年6月末時点で148億ドル、20年9月末時点で190億ドル、20年12月末時点で298億ドルになった。つまり2020年の1年間で受注残が約2兆円増えた。
勢いは2021年に入っても衰えていない。2021年6月末のRPOは353億ドルであり、この6カ月間でさらに55億ドル増えた。営業部隊が顧客から獲得したコミットメントがいかに多かったかがうかがえる。その代償がGoogle Cloudにおける巨額の営業損失だ。大口契約を獲得した営業担当者に対して、気前よく成果報酬を支払ったためだ。
Google Cloudにとって気がかりなのは、営業担当者が必死に積み上げてきた受注残に、疑惑の目が向けられ始めたことだ。米メディアのThe Informationによる2021年8月27日の報道によれば、Google Cloudと大口契約を結んだ法人顧客において、実際にクラウドを利用した金額がコミットメントの金額を大きく下回る事態が相次いでいるというのだ。