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 従業員の在宅勤務を2021年夏まで継続中の米Google(グーグル)が、新しいオフィス計画を明らかにした。在宅勤務に対応してオフィスを減らすのではない。逆に現本社近くに新しいオフィスキャンパスを、しかも職住近接の形で新設するというのだ。

 グーグルが本社を置くマウンテンビュー市役所が2020年9月中旬、グーグルが市に申請した計画を公表した。計画は「Google Middelefield Park」との名称で、サンノゼとマウンテンビューを結ぶライトレール「VTA」のMiddelefield駅近くの40エーカー(16万1874平方メートル)を再開発する。4棟のオフィスビルと2棟の駐車場ビルに加えて、店舗なども入る6棟の住居用ビルを建設する。本社を移転するのではなく、本社から5キロメートルほど離れた場所にオフィス群を追加する形だ。

 再開発地区の現状は、広い駐車場に囲まれた低層のオフィスビルが立ち並ぶビジネスパークで住居や店舗は存在しない。再開発によってオフィス面積は現在の65万4000平方フィート(6万758平方メートル)から130万平方フィート(12万773平方メートル)へと倍増する一方で、新しく1850戸の住居が生まれることから、3300~3500人が新たにこの地区に住むようになるという。

「Google Middelefield Park」の完成予想図
「Google Middelefield Park」の完成予想図
出所:マウンテンビュー市役所のWebサイト
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 新型コロナウイルスの感染拡大によって在宅勤務がニューノーマル(新常態)とされ、日本でもオフィスの縮小に動く企業が現れ始めている今のご時世に、なぜグーグルがオフィス拡張に走るのか。その背景にはグーグルが直面し続けている地元との厳しい不和が存在する。

住民反発で本社建て替えが頓挫した過去

 グーグルはオフィスを増設する理由について公表していないが、同社にとって現状、本社周辺のオフィスが全然足りていないことは、過去の経緯から想像がつく。グーグルは2015年2月、本社周辺を再開発して、巨大な新本社キャンパスを建設する計画を発表しているのだが、この計画は地元住民の反発によって頓挫していたのだ。

グーグルが2015年に発表した新本社の完成予想図
グーグルが2015年に発表した新本社の完成予想図
出所:グーグル
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 地元住民が懸念したのは、グーグルの本社で働く従業員が増えることによる交通事情の悪化や、不動産価格や家賃の上昇だった。グーグルの本社近くを走る高速道路の101号線は近年、慢性的に渋滞している。加えてシリコンバレー地域の不動産価格や家賃水準は全米でも最高クラスに達している。地元住民としては住環境のこれ以上の悪化は受け入れがたかったのだ。

 筆者も2015年から2019年までシリコンバレーに駐在したが、家賃の高さにはうんざりした。60~70平方メートルほどの家族向けアパートの家賃が月額30万~40万円にもなるのだ。サンフランシスコからシリコンバレーの南端であるサンノゼまでの距離は、東京から神奈川県小田原市までの距離に相当する。都心から小田原までの間のどこに住んでも、家賃水準が都心と変わらないと言えば、それがどれだけ異常か伝わるだろうか。