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こうのとりが画面から突然“消えた”

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授の神武直彦氏。同氏もJAXA出身で、高精度測位のラグビーへの適用をトップチームから大学、地域スポーツで実施している。他にも宇宙分野とスポーツ分野で、さまざまな取り組みをしている
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授の神武直彦氏。同氏もJAXA出身で、高精度測位のラグビーへの適用をトップチームから大学、地域スポーツで実施している。他にも宇宙分野とスポーツ分野で、さまざまな取り組みをしている
(写真:加藤康)
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神武 今まではすべてがうまくいっているように、外から見えますが、きっとピンチもあったと思います。そのときの状況とリーダーとしてどう対処したのかを教えていただけますか。

前田 個人的に、おそらくこうのとりとしてもですが、チームとしての最大のピンチは、星出さんもご存じですが、3号機がISSを離れるときに起きました。

 離れるときは、こうのとりをつかむのとは逆で、ISSの下、13mぐらいの所にこうのとりを置いて、ロボットアームで離します。離した後にエンジンを噴射し、だんだんISSの下に離れていくというシーケンスです。

 ところが、3号機のときはいろいろと不運が重なって、こうのとりが突然、そこで衝突回避の動作をしたんです。それは設計通りで全然構わないのですが、まさかそこで衝突回避の「マヌーバ」(宇宙船の軌道を変えるために推進システムを動作させること)をすると思っていなかったので、我々が見ている画面から突然消えたんです。

 私は一瞬顔を上げてから画面を見たんですが、「あれ? ない」という状態でした。その直前にISSに対して、こうのとりがちょっとずつ近づいてきているように見えるという報告を聞いたので、何か起きているとは思っていたんです。

 その衝突回避のマヌーバをした直後に、こうのとりに対して、とっさにあるコマンドを打ちました。ところが、こうのとりがISSの近くにいるときには、全てを統括するトップはヒューストンにいるフライトディレクタなので、本来は許可をもらわないといけないんです。つまり、彼の許可がないとコマンドを打てないのですが、こちらのチームのコマンドを打つ担当の人が「打っていいですか」と言うので、私は「いいよ」って言っちゃったんですね、ヒューストンに確認する前に。

 それで「やばい、言ってしまった」と、心臓が止まるかと思いました。その後、ヒューストンのフライトディレクタに、英語なんですけれどコマンドを打つ報告をしたら、「打ったのか、打つのか、どっちだ」と聞いてきて、「打った」と言ったら、「了解」とだけ言ってくれたんです。

 通常だったら、そこでめちゃめちゃ怒られてもおかしくない状況なんですけど、そこはもう分かったので「安全の確認だけ、お願いね」と言ってくれました。我々は軌道をチェックし、ISSに衝突しないことを確認し、報告しました。

 あの瞬間はたぶん私が一番慌てていたんですが、他のフライトコントローラーはすごく冷静で、それぞれ自分が担当するサブシステムを確認してどんどん報告を上げ、私が行う状況把握をすごくスムーズにしてくれました。

 我々にとっては「何でもありません」という報告が上がってくることは、すごく大事なんです。何でもないときは言わない、というスタンスの人もいますが、「それはとにかくやめてください」とチームにいつも伝えています。このようにいざという時に、それが皆、自然にできたというのはうれしい出来事でした。