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ケガ予防とパフォーマンス向上をデータを基にサポート

神武 それは偶然ですか、それとも希望されたのですか。

太田 大学の先輩がそこのチームと関わりがあったので、誰かいないかということで、僕が行くことになりました。そこから、20年近くずっとラグビーに携わっているので、よく「ラグビー選手だったんでしょう」と聞かれます。でも、いつも「キャッチャーです」と答えています。

 社会人チームのトレーナーを10年ほどやり、その後、縁があって慶應義塾の體育會蹴球部(体育会ラグビー部)にお世話になって8年になります。日本代表に関わるようになったのが2013年のころからで、アシスタントS&Cを務めています。

 前回(2015年)ワールドカップの「エディージャパン」(ヘッドコーチがエディー・ジョーンズ氏)のときは国内合宿のサポートと、チームが海外に遠征しているときに選手がiPadに入力している自分のコンディションに関する情報を、国内にいる僕がまとめてコーチ陣に送っていました。なので、ワールドカップで日本代表が南アフリカ代表に勝ったときは、千葉市幕張のスポーツバーで真夜中に試合を見ていました。

 ワールドカップが終わった翌年にスーパーラグビーに参戦するサンウルブズのアシスタントS&Cを任されました。同時に、日本代表も兼務になりました。現在は、日本代表、サンウルブズ、そして慶應義塾大学ラグビー部のS&Cコーチをやっています。

慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授の神武直彦氏。同氏もJAXA出身で、高精度測位のラグビーへの適用をトップチームから大学、地域スポーツで実施している
慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科教授の神武直彦氏。同氏もJAXA出身で、高精度測位のラグビーへの適用をトップチームから大学、地域スポーツで実施している
(写真:加藤康)
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神武 ところで、スーパーラグビー、トップリーグ、日本代表の関係やサンウルブズについて簡単に教えていただけますか。

太田 前回2015年のラグビーワールドカップが終わった2016年に、サンウルブズが創設されました。2019年の日本でのワールドカップ開催に向けて、日本代表の強化を促進するためにスーパーラグビーという、南アフリカ、ニュージーランド、オーストラリアにアルゼンチンが加わった南半球の強豪国のリーグに日本のチームが参戦させてもらうことになりました。海外のハイインテンシティ(高強度)でハイレベルなラグビーの経験値を積むことを目的にチームが発足されました。日本代表とサンウルブズが同時進行で、日本のラグビーを強化していくという構想です。

 もう1つのミッションが、アジアにおけるラグビーの認知を高めることです。スーパーラグビーのシーズンは2月から6月までで、その間にも、日本代表と海外の国際大会が6月と11月に開催されます。試合が重なっているところは選手を分け、重なっていない場合は日本代表の選手を多めにスーパーラグビーの試合に出すようにして強化を進めています。

 僕もそうですが、コーチ陣も、日本代表とサンウルブズを兼任しています。試合のデータやトレーニングの情報をシェアしながら、日本のラグビーの強化を進めています。

神武 太田さんが担当されている「S&C」とは、どういう意味ですか。

太田 ストレングス&コンディショニング(Strength&Conditioning)という意味です。ストレングスというのは、筋力とか、パワーという意味で、コンディショニングは、それを持続させる力とか、調整する力です。つまり、体に関わる能力のコーチという役割です。

 ラグビーチームには通常、S&Cとメディカルトレーナーがいます。メディカルトレーナーは主にケガをした選手の応急処置と競技復帰を中心にサポートするのが役目です。一方、S&Cの役目はケガをしていない選手のパフォーマンスを高めることです。両者が互いに、選手の競技復帰、ケガの予防のために協力し合っています。

 具体的には、S&Cコーチは筋力トレーニングを指導したり、パフォーマンスを高めるための体のバランスや、スピード、持久力のトレーニングを担当します。さらに練習や試合中に装着しているGPS(全地球測位システム)デバイスのデータをモニタリングします。例えば、練習の強度がその日その日のターゲットに見合っているかどうかや、試合のデータを分析してそれを練習に落とし込むことを、コーチとコミュニケーションを取りながらやっています。けがの予防とパフォーマンスの向上を両立させることをサポートするのが狙いです。

山方 選手の数というか、分析・解析しなくてはいけないデータ量は、宇宙飛行士とは比較にならないくらい多いですよね。

太田 そうですね。例えば慶應義塾の場合は、僕がいて、学生トレーナーにそういうノウハウを伝え、みんなで150人くらいの選手をサポートしています。

神武 宇宙飛行士とラグビー選手の違いは人数で、JAXAは基本的に日本の宇宙飛行士を育てるのがミッションではないのですか。

山方 そうですね。私のミッションは、日本人宇宙飛行士を訓練することでした。とは言え、日本人宇宙飛行士がISSに滞在しないときもあります。そのとき海外の宇宙飛行士が日本実験棟「きぼう」で何らかの実験をやって装置を壊されたりしたら困るので、日本人の代わりに実験をしてくれる宇宙飛行士たちの訓練も、ちゃんと別チームで考えて訓練しています。

 そこで最大の壁になるのが言語です。全部英語で説明しなくてはなりません。

神武 でも、山方さんご自身は、子供のころからインターナショナルスクールに通われていて、英語力は問題ないのでは。

山方 僕はまだいいのですが、例えばきぼうで使う実験装置を設計したエンジニアの人たちは、訓練のプロセスの中で、海外から来た宇宙飛行士に装置について説明しなければいけません。

 彼ら自身が英語でちゃんとニュアンスを含めて伝えられなければならないため、英語をしっかりと勉強して、ちゃんと通じるかを繰り返しリハーサルした上で訓練をしています。

 私の場合は日本人宇宙飛行士について、例えば、誰を船外活動に強い宇宙飛行士にしようとか、誰をロボットアームが得意な宇宙飛行士にしようとかを考えながら、来年度はこういう訓練をやった方がいいという計画を作ることもありました。語学の部分も、宇宙飛行士の語学の成績を見ながら、訓練内容や頻度などを考えていました。