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常時監視下で1週間を過ごす選抜試験

神武 宇宙飛行士では選抜試験に合格して候補者になった人が訓練をして宇宙に行く。一方、ラグビーでは代表選手に選ばれて国際試合に出場する。こうした大きな流れの中で、お二人の立場でそれぞれどんな部分に関わっているのかを教えてください。

山方 宇宙飛行士になるためには、最初に選抜試験があります。その選抜のプロセスでは、閉鎖環境に長期間いても作業のパフォーマンスが落ちないことが求められます。具体的には、常時監視された窓がない部屋で1週間過ごし、その間に試験官から「あれをやれ、これをやれ」と指示が出ます。話していることも全部聞かれており、ストレスが高まって行きます。

 でも、宇宙空間に行ったときに、ストレスが高まったから気分転換にどこかに出掛けようということはできません。ストレスをうまくコントロールしながらパフォーマンスを維持できる人は誰か、という部分が最後の選抜でチェックされます。その際、チームワークへの適用力や、リーダーなのかフォロワーなのかという部分も見られます。要は、半年間、ISSに滞在して確実に実験をこなしてくれる人材かどうかという観点で選ばれるのです。

 最後の選抜に合格しても、その時点ではラグビーでいうと、選手にはなれたけれど代表チームには選出されていない状態です。その後、実際に宇宙飛行士になるために基礎訓練を行います。基礎訓練はまずは1年半、日本、米国、ロシアなどで実施します。そこでは、宇宙に行くために必要なことや、宇宙でのミッション、さらに帰還の際に万が一、緊急事態が発生した時にどうすればいいのか、などを含めて訓練します。

国際宇宙ステーション(ISS)の緊急事態対処訓練を行う星出彰彦、ニコライ・チーホノフ、アンドレイ・バブキン宇宙飛行士 / NASAジョンソン宇宙センター(JSC) / 撮影日:2019年7月11日(日本時間)
国際宇宙ステーション(ISS)の緊急事態対処訓練を行う星出彰彦、ニコライ・チーホノフ、アンドレイ・バブキン宇宙飛行士 / NASAジョンソン宇宙センター(JSC) / 撮影日:2019年7月11日(日本時間)
(写真:JAXA/NASA)
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 全ての訓練過程が終われば、宇宙飛行士として認定されます。でも、その時点では宇宙飛行士にはなったのだけれど、ミッションが決まっていません。そこで我々が宇宙飛行士の適性を見て、「この宇宙飛行士には船外活動を担当してもらいたい」「ロボットアームの操作を担当してほしい」などと戦略的に計画を立ててミッションに任命されるように訓練をしていきます。

 そうした訓練を経て「この宇宙飛行士はこれだけのパフォーマンスが出せるようになったから、このミッションにアサインしてほしい」というような国際間調整をします。そこには、例えばこのタイミングで花形の船外活動をさせたいなど、日本の戦略があるわけです。実際にミッションが決まれば、本番に向けて本格的な訓練が始まります。

 恐らくラグビーの日本代表なども似ていると思うのですが、さまざまなケースを想定した訓練が約2年間ほど続きます。その訓練を終えれば、ようやくISSに向けて飛び立てるわけです。

 ただ、宇宙飛行士は6カ月のISS滞在で、3カ月がたった時点で、2年半前のいちばん最初にやった訓練の内容をかなり忘れてしまっていたりします。なので、ISS滞在中にも、どうやってそれを復習できるようにするかを計画して訓練するようなこともやっています。

 こうした宇宙飛行士の訓練内容は完成しているわけではなく、成長し続けています。すべてのミッションが終わると、この訓練はどうだったか、本当に必要だったのか、などのブリーフィングを宇宙飛行士たちと行います。

 例えば、今までこの訓練とこの訓練は別々にやっていたけれども、一緒にやった方がいいとか、実はこの訓練は最初ではなく、ミッションの直前にやればよかった、などということが、気づきとして出てきて、だんだん効率化していきます。そういうことを繰り返すことで、常に成長するのです。