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ハイレベルに放り込んでレベルを引き上げる

山方 サンウルブズのような世界トップクラスのリーグに参戦することで、やはり日本の選手のパフォーマンスも高まるのでしょうか。

太田 ハイレベルになると、スピードとインパクトが全然違ってきて、選手の心拍数も高まります。そうなると、やはり判断やスキルの低下が起こります。そういう状態に慣れて判断やスキルを一定状態に保てるようになることが重要です。

 ただし、いきなりハイインテンシティ、ハイスピードの世界に入ると、けががある程度起きてしまいます。だから、それに耐えられるような体づくりが必要になるのです。

山方 宇宙飛行士も、地上の管制官も、ハイインテンシティではないですけれど、シミュレーションをたくさんやります。そこでは、あり得ないような事故がたくさん起こります。絶対に現実的には起こらないぐらいのことが。

 例えば管制官を育成する訓練では、1回につき6時間から8時間なのですが、その間ずっとプレッシャーをかけ続けたりします。「電気が止まった、水の流れが変わった、温度が上がった。でも、これを止めてしまうとこの実験が駄目になってしまう」とか。そうした中でもチームとしてちゃんと判断できるように仕上げていくのです。そうすることによって、実際のミッションでは、何も起こらず、なんか気が抜けたような状態になったりします。

太田 トレーニングには「オーバーロード」という言葉があります。自分の持っている力に対して、少し多めに負荷をかけ、これを年間通して繰り返すことによって、最終的にはすごい負荷でも耐えられるような状況になる。

 でも、負荷をかけ過ぎると壊れてしまうので注意が必要です。例えば、筋肉が壊れたストレスと、エネルギーを多く使ったストレスは違います。回復の時間も違えば、反応の出方も変わってきます。

 通常、強化期はたくさん練習し、試合期は調整というイメージがありますが、私は2つの事にチャレンジしています。1つは試合日にハイパフォーマンスの状態になるよう調整する事、もう1つはシーズンを通じて成長し続ける事です。

 そのために、選手にかかる負荷の内容と量、それによる疲労の程度と回復期間を分析し、新しいプランを作るのに生かしていきます。そこで鍵になるのがリカバリーです。負荷をかけることは簡単ですが、いかに回復を早めるためのプランも設定しているかが重要になります。我々はよく「Hard Work & Hard Recovery」という言葉を使います。「ハードリカバリー無くしてハードワークはない=ハイパフォーマンスには到達できない」という意味です。

(次回に続く)

対談を終えて市原スポレクパークのグラウンドで。左から山方氏、太田氏、神武氏
対談を終えて市原スポレクパークのグラウンドで。左から山方氏、太田氏、神武氏
(写真:加藤康)
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山方健士(やまがた・けんじ)
山方健士(やまがた・けんじ) JAXA 有人宇宙技術部門 事業推進部 国際宇宙ステーション広報担当。 2000年 筑波大学大学院バイオシステム研究科卒業、同年宇宙開発事業団(現JAXA)入社。入社後10年間、本コラムに登場する星出彰彦宇宙飛行士など、日本人宇宙飛行士の国内外での訓練企画などを担当しつつ、日本の技術を使って次世代の宇宙服を作ることを目指す「次世代先端宇宙服研究」に従事。その後、経営企画部門にて危機管理を約4年担当、続いて配属された新事業促進部では宇宙の技術を地上へ転用するための事業や地上の技術を宇宙へ転用するための取り組みを2016年10月まで従事。
太田千尋(おおた・ちひろ)
太田千尋(おおた・ちひろ) スーパーラグビー ヒト・コミュニケーションズ サンウルブズ S&Cコーチ、慶應義塾大学ラグビー部(蹴球部)S&Cディレクター。2013年からはラグビー日本代表アシスタントコーチも務める。1979年6月、千葉県生まれ。小学校から野球を始め、習志野高校野球部出身。その後、国際武道大学に進学、コンディショニング科学研究室に所属し、アスリートの疲労回復や傷害予防の研究を進め、大学4年時にトレーナーチームのリーダーを務める。ラグビーには大学3年生の時、トップリーグ クボタスピアーズのアスレチックトレーナー実習生として関わり、その後同チームコンディショニングコーチを8期務める。退任後は慶應義塾ラグビー部のS&Cコーチに就任。現在、慶應義塾大学博士課程 在学中。2018年度 に日本ラグビーフットボール協会 コーチ アワード オブザ イヤー 日本代表カテゴリーコーチ賞を受賞。
神武 直彦(こうたけ・なおひこ)
神武 直彦(こうたけ・なおひこ) 慶應義塾大学システムデザイン・マネジメント(SDM)研究科 教授。慶應義塾大学大学院理工学研究科修士課程修了。同政策・メディア研究科博士課程修了。宇宙開発事業団入社。H-II、H-IIAロケットの研究開発と打上げ、人工衛星および国際宇宙ステーション搭載ソフトウエア独立検証に従事。欧州宇宙機関研究員、宇宙航空研究開発機構主任開発員を経て、2009年より慶應義塾大学准教授。日本スポーツ振興センターハイパフォーマンス戦略部アドバイザーなどを歴任。現在、Multi-GNSS Asia Steering Committee Member、ロケーションビジネスジャパン実行委員長。アジア工科大学大学院招聘教授。博士(政策・メディア)