現地の都合に合わせず、オリジナルのままで勝負
自社配信と他社配信に切り分けているポイントは?
タイトルの特性によっても、切り分けています。例えば、15人対15人のリアルタイム対戦のように、同期通信が非常に多く発生するゲームシステムの場合、インフラの構築はとても困難です。海外で多地域展開する際には、インフラ設計や負荷分散など、難易度が格段に上がります。
そうしたタイトルは、MMORPG(大規模多人数同時参加型オンラインRPG)を世界展開している企業と組んで、世界配信したほうがいいと判断しています。このように、パートナーシップを経て、世界配信・運営について一つひとつ学んでいます。
自社配信はすべて東京からコントロールしているのですか?
そこが戦略の肝でもあります。これまで我々は、原則的には地産地消的な考え方をしていました。各国・地域に合わせたものづくりをしなければ、ローカライズをしなければ――と考えて、現地法人を作り、地域ごとに個別にゲーム開発などをしてきたのです。正直、そのやり方はうまくいかなかったと振り返っています。
翻って、現在は主に日本で、主に日本人が日本風のゲームを作っています。日本固有のカルチャーに起源のある作風のゲームを作って、それで海外展開しようという開発戦略にしたのです。つまり、「日本版オリジナルのまま」であることに価値がある作品づくりを軸にしようと。このSNS時代、“類は友を呼ぶ”というマーケティング手法は万国共通です。日本でしっかり作って、それをダイレクトに「好きな人」へ届けることを基本戦略にしています。
日本市場では許容されているゲームの表現でも、ほかの地域ではNGになってしまうことはないですか?
法的な部分は規約に載せていますが、基本的に日本ゲームをそのまま配信しています。絶対ダメという表現なら、その地域だけそのキャラクターを出さないという対応をしますが、無理やりデザインを変えるような変更は原則していません。
日本では当たり前の文化的なもの――例えば、ひな祭りに関連したイベントを、ゲームの中でそのまま再現しても、海外では通用しないことがあるのでは?
それでも原則はそのままやります。ファンの方々は、日本版と違うこと自体を嫌う傾向にあります。その上で、マーケティング戦略も、ほぼ日本からオンラインで完結させます。今はさまざまな広告ネットワークも充実しています。
グリーではグループ内にそうした専門子会社(GREE Advertising,Inc.)がありますから、ノウハウを共有しながら、広告クリエイティブなども日本で作って、それを北米・欧州、中国以外のアジア各地域で展開しています。
5G時代はグリーにとって追い風に
中国市場に対してはのスタンスは?
18年10月に中国bilibili(ビリビリ)と業務提携し、合弁会社bG gamesを設立しました。中国市場はもはや日本の2倍以上の市場規模ですが、プラットフォームが乱立しており、外資は参入規制もあるため、自分たちの戦略にあったパートナー企業と深くお付き合いすることが大切だと思っています。
ゲーム以外の事業領域、例えばVTuberのような事業も、中国ですごく人気が出ているので展開を準備中です。
逆に、中国のゲーム会社が日本市場に進出する際に必要になる開発以外の領域──ゲームの運用に関する事業やカスタマーサポート事業、マーケティング事業などを支援する子会社がグリーグループにはありますから、それらの領域での中国企業との提携も増えています。
今後5Gや複数のゲームプラッフォームが立ち上がっていく状況についてはどう捉えてますか?
多人数が同時接続で遊べるリアルタイム同期対戦のようなゲームシステムを得意とする我々にとって、5Gは追い風だと思っています。加えてGoogleの「Stadia」、マイクロソフトの「Project xCloud」などのクラウドゲーミングプラットフォームにも当然興味があります。
我々はもともとブラウザゲーム出身なので、サーバーエンジニアが比較的多い会社です。広義のオンラインゲームプラットフォームが増えることは、自分たちの得意な土壌が広がっていると思っています。
それに、ゲームの歴史が物語っている通り、複数プラットフォームが立ち上がるときは、強力なコンテンツを持っている会社、作れる会社側が強い。だからこそ、自分たちの得意な作品やゲームシステム、その作り方や運営を確立させること、「グリーといえば」という開発力を持つことは、これからの時代を意識して重要視しています。
グリー 取締役上級執行役員 Pokelabo・Asia事業統括
(写真/稲垣純也、写真提供/グリー)