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 今回は、部下が消極的で挑戦しないという悩みを持つ田中課長(仮名)からの相談です。

 私は、今年5年目の斉藤さん(仮名)にこう伝えました。

私:「斉藤さん、今度の全社プロジェクトにあなたを推薦したいのだけど」

斉藤さん:「えっ、私ですか?」

私:「斉藤さんなら十分できるよ」

斉藤さん:「でも、私は今の仕事で手いっぱいですし……」

 私は斉藤さんの実力から見て十分できると判断しました。ところが、斉藤さんは「どうして、課長はそんなことが言えるんだろう」とか「何も分かってくれていないのに、難しいことを押し付けられそう」などと周りにこぼしていたそうです。こう聞いて私は大いに不満に感じ、モチベーションも下がってしまいました。今後、消極的な社員をどのように指導していけばよいでしょうか。

 仕事においてリーダーがメンバーの目標設定を行う場面はたくさんあります。目標設定のやり方は、メンバーの行動に大きな影響を与えます。リーダーとメンバーの間で普段のコミュニケーションが不足しており、本人の実力値を把握していないにもかかわらず、「○○さんなら、これくらいできるよ」と難しい目標を設定しても、メンバーは白けてしまいます。

 目標設定のやり方を変えるだけで、メンバーのモチベーションが高まり、チームの雰囲気も変わります。ここで役立つのが、目標設定理論です。

目標設定理論とは

 目標設定理論とは、目標設定のやり方によってモチベーションの度合いや働きが変わるとする理論で、米国の心理学者であるロックが提唱したものです。

 本人が納得した目標である場合、明確で具体的な目標の方が曖昧な目標よりも成果につながる。また、簡単な目標よりも難易度が高い目標の方がよりパフォーマンスを発揮できる。これらが確認されています。

 例えば、リーダーがメンバーに仕事を指示する際に、「できる限り早く終わらせてほしい」と言うよりも、「明日の12時までに完了させてほしい」と言う方が、メンバーはどれくらい頑張ればよいかが分かるので取り組みやすくなります。

 また、目標達成のプロセスにおいては、本人へのフィードバックがある方が高いモチベーションにつながります。「自分が今、どれくらいまで進んでいるのか」や「目標まで後どれくらいかかるのか」など、目標とのギャップが分かるので目標に到達しやすくなるのです。

リーダーからメンバーへの働き掛け

目標設定時にリーダーが押さえるべきポイント
目標設定時にリーダーが押さえるべきポイント
(出所:日経クロステック)
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 リーダーがメンバーと目標設定する際に、押さえるべきポイントは4つあります。

[1]メンバーを観察して知る

 低すぎる目標では、無意識のうちに自分のパフォーマンスを調整してしまいます。逆に、あまり高すぎる目標ではチャレンジする意欲を失ってしまう可能性があります。目標は高すぎても低すぎてもモチベーションを高めることはできません。「頑張れば、何とかなりそう」と感じられる、成否が五分五分の目標が有効です。

 ただし、自分の実力値は、自分ではなかなか分からないものです。そのため、リーダーは普段からメンバーをよく観察し、実力値を把握しておく必要があります。そうすれば、実力値に対して「少し難しい目標」をメンバーと一緒に設定することができます。リーダーが無理やり押し付けた目標ではメンバーのモチベーションは上がりません。メンバー本人の納得感が得られた目標であることが大切です。

 普段コミュニケーションが十分にできており、本人の実力値が分かっている。その上で、「○○さんなら、これくらいできるよ」と伝えれば、メンバーは「やってみようかな」という気になるものです。

 リーダーは、普段からメンバーとのコミュニケーションを密にし、メンバーをよく観察して、実力値を知っておく必要があります。

[2]目標の意味を伝えて納得を得る

 設定する目標については、メンバーに納得してもらう必要があります。理由なく難しい目標に挑戦させられても、メンバーから納得感を得ることはできません。納得感のある目標とするには、目標が持つ「意味」をメンバーに理解してもらうことが大切です。目標の意味には「外的な要素」と「内的な要素」の2つがあります。

 外的な要素とは、目標を達成することで、顧客やチームに対してどのような貢献ができるかに関するものです。例えば、「この提案が顧客に認められれば、顧客に貢献できて、結果としてチームの業績にもつながる」というように、目標を達成することで周囲にどのような影響を与えるのかが分かれば納得感を得られます。

 内的な要素とは、目標の達成が自分自身の成長にとってどのような意味があるかに関するものです。“今”の実力なら余裕でできることに取り組んでも、自らの成長は見込めません。実力に対して少し高めの目標にチャレンジすることで成長するのです。

 こうして本人がどのような能力を得られるかを伝えることで、目標に意味を持たせることができます。