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 今回は、部下の行動が行き当たりばったりだと悩んでいる中原マネージャー(仮名)からの相談です。

 私は会社の目指す方向性をきちんとメンバーに伝えています。しかし、メンバーが私と同じような危機感を持って行動してくれるところまでには至っていません。逆に、待遇への不満や仕事へのやりがいが感じられないといった声が上がっているほどです。チームが一丸となって目標達成に向かう雰囲気がなかなかつくれない状況です。メンバーたちを見ていると、ただ周りの情報に流されて、行き当たりばったりで動いているだけのように思えます。もっと危機感を持って主体的に動かせるためには、どのように指導すればよいのでしょうか。

 ビジネスの現場において、これまでは過去の成功パターンを押さえておけば大きな問題にならないことが多かったと思います。ところが、現在は変化が激しくて先が読みにくい時代です。成り行き任せで仕事を進めてしまうと、必要以上に時間を費やしてしまいます。ビジネスパーソンとしては、「仮説思考」を身に付けておく必要があります。

 仮説とは、ある論点に対する「仮の答え」です。仮説というと「なじみが薄い」と感じるかもしれません。しかし、普段の生活では、誰もが仮説を使っています。

 例えば、雨が降った日に、「今日なら人気のイタリアンレストランも空いているだろう」と思って家族で出掛けたとします。レストランに着いて空いていれば、自分の仮説は当たっていたことになります。次からも「雨の日はこのレストランは空いている」という前提で行動するでしょう。

 でも、予想に反して混んでいたらどうでしょうか。「雨の日はこのレストランが空いている」という見立ては間違いだったことになります。皆が同じように考えるために、逆に「雨の日はレストランが混んでいる」のかもしれません。あるいは、そもそも天気とレストランの混み具合には相関関係がないのかもしれません。このように考えることが、仮説思考なのです。

仮説を立てるステップ
仮説を立てるステップ
(出所:日経クロステック)
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仮説を考えるメリット

 仮説を正しく考えることで、3つのメリットがあります。

[1]問題解決のスピードが上がる

 最初に仮説を立てて、それを検証するために必要な情報収集や分析を行うので、ムダがなくて効率的です。限られた時間の中で、「何をすべきか」と「何をすべきではないか」を明確に決めて、物事を先に進めていくことができます。経験を積むことで、検証の質とスピードを高めて良い仮説が立てられるようになります。

 もし仮説が間違っていたとしても、情報収集の段階で間違いに気づけば、軌道修正や仮説の立て直しができます。

[2]仕事の質を高めることができる

 仮説を立てて重要な論点を深掘りすることで、アウトプットの質を高めることができます。仮説が正しいという証拠集めを同時並行で進めることで、必要に応じて軌道修正しながら仕事を進めることができます。結論が推定できていると、計画も立てやすく時間切れになることも防げます。

 初めてで全容が見えていない仕事や不確実性が高い仕事でも、仮説に基づく大局観を持つことで、仕事の質を高めることができるのです。

[3]問題意識が高まる

 仮説があれば、さまざまな状況証拠を漏れなく体系的に集めようと意識します。仮説がなければ、証拠は証拠になり得ず、単に事実が散らかっている状態になります。日ごろ、自分のビジネスに対して仮説を持つように心掛けることで、さまざまな情報に対する問題意識を高めることにつながります。

 関連する状況証拠をよりたくさん集めて仮説の妥当性を高めていくことは、より高い視点や広い視野から物事を見ることにつながり、より深い洞察ができるようにもなります。

仮説を立てるステップ

 仮説思考は、4つのステップで行います。最初の仮説をデータや事実で補強しながら、より確かな仮説へと“育てて”いきます。

[1]仮説を立てる

 新しいアイデアは、何もない状態からいきなり生まれるものではありません。さまざまな事柄について徹底的に考え抜き、そこに新しい情報や刺激が加わったときに生まれます。知識の幅を広げておくことが、良い仮説が生まれる可能性を高めます。

 良い仮説を立てるためには、事実に基づいて考えることが大切です。どれほど論理展開が正しくても、情報が事実でなければ、それは単なる思い込みに終わります。

[2]情報を収集する

 仮説をサポートする根拠になる情報を集めます。集めた情報は、既存の情報と組み合わせて必要に応じて分析を加えていきます。1つの切り口からでは見えなかった情報も、切り口を変えると見えてくる場合があります。

 数値を分析する場合はベンチマークとなる数字と比較するなど、情報から価値のある「意味合い」を引き出すことがポイントです。

[3]仮説を検証する

 環境は不変ではなく日々変わっていきます。仮説は、時間をかけて検証の精度を高めるよりも、その時々の状況に応じて早い段階で必要な意思決定を行います。走りながら仮説を再構築し、調整していくことが現実的です。

[4]仮説を肉付けする

 肉付けとは、より具体的なアクションにつながっていくように仮説を具体化することです。この具体化する作業がないと、最終的に行動につながりません。 仮説の肉付けのときには、仮説を検証するときに入手した情報や分析結果を最大限に活用します。

 もし仮説が否定されてしまった場合には、いったん最初の仮説に立ち返り、新しい仮説を立てたり仮説を修正したりします。