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 チームリーダーの三浦さん(仮名)は、チーム内の知識やノウハウをもっとうまく活用できないか、と悩んでいます。

 残業規制やフレックスタイム制により、メンバーの労働時間が少なくなりました。その分、これまでよりも生産性を上げていかなければなりません。職場には、たくさんのノウハウやコツがあります。優秀なメンバーやベテランの知識・ノウハウをうまく共有していく必要があります。しかし、テレワークを利用するメンバーも増えて、これまでのような情報の共有や指導が難しい場合が増えています。こうした状況の中でチームの生産性を高めていくためにはどうすればよいでしょうか。

 トップセールスマンの顧客を攻略するスキルや、ベテランのなぜかよく当たる勘、尊敬する先輩による、言葉では説明できない早業……など、会社の中には言葉では説明するのが難しい知識やノウハウが存在します。個人の頭の中に入っている言葉に表現できないこの知識を「暗黙知」と呼びます。

 一方で、文章などで言語化されている知識は「形式知」です。職場の身近な例で言えば、業務マニュアルや社内文書などに記される、数値や文書、データ化された明確な知識です。

 日本では、職人技のような暗黙知を言葉ではなく、その人の背中を見て長い年月をかけて体得することに美徳を感じる傾向があります。でもこれからは、個人が持っている感覚的な知識である暗黙知をいかに形式知化して共有し、業務の効率化やイノベーションにつなげるかが重要です。

SECIモデルの4つのプロセス
SECIモデルの4つのプロセス
(作成:日経クロステック)
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SECIモデルの4つのプロセス

 暗黙知と形式知の2つを個人や組織の間で相互に絶え間なく変換することで、新たな知識が創造されると考え、その交換のプロセスを示すのが「SECI(セキ)モデル」です。

 経験的に体得した知識でも言葉で簡単に説明できない暗黙知は、以下の4つのプロセスを通して、組織で共有できる形式に変換できると考えられます。

[1]共同化:Socialization

 個人の暗黙知を、共通の体験を通じて人から人へ伝達する段階です。知識を得たい人が、知識を持っている人から教えてもらって「暗黙知」を得ます。

 例えば、部下が上司の営業に同行して営業ノウハウやコツを見て学び、自らチャレンジして習得していくような状況です。上司の暗黙知が部下の暗黙知として知識が伝わっていきます。

[2]表出化:Externalization

 個人が得た暗黙知は、そのままでは他者と共有しにくいものです。共有できるように言葉や図などに表現し、形式知にすることで理解が進みます。

 例えば、上司との営業同行で得た営業ノウハウを他の場面でも応用できるように抽象化したり、法則性を見つけたりして、誰でも見ることができるようにマニュアル化していきます。部下の暗黙知が形式知へと変換されていくプロセスです。

[3]連結化:Combination

 既存の形式知と新しい形式知を組み合わせて体系的な形式知を創造する段階です。バラバラだった知識が全体として編集され、まとめられて体系化されます。

 例えば、それぞれの上司と営業同行を行っていたメンバー同士が集まって話し、現場で使える新しい法則性を発見してマニュアルを更新することなどです。個人的な形式知が組織的な形式知に変換されたり、イノベーションが起こったりする段階です。

[4]内面化:Internalization

 結合された形式知が利用されて、新たな暗黙知が形成されるステップです。体系的な形式知を実際に体験することで身に付け、さらに暗黙知として体得する段階です。

 例えば、先ほどの連結化で得た新しい営業の法則性を個人で実践していくうちに、新たな営業の法則を個人で感じ始めた、すなわち暗黙知が生まれた状況です。組織的な形式知が実践されていくことで、個人の暗黙知へと変換されていきます。

 ここで得られた暗黙知を基に、さらに「共同化」からの4つのプロセスが繰り返されてSECIモデルが形成されます。