工務課の戸塚課長(仮名)からの相談です。
部下の稲垣さん(仮名)は入社5年目なのですが、何度言っても指示通りに行動してくれません。先日も私が「効率化のために、新しいやり方を試してみようよ」と話したのですが、全く動く気配がありません。たまりかねて私が再度指示すると、「これまでのやり方でうまくいっていますし、この仕事は自分のほうがよく分かっています」と耳を貸そうとしないのです。私はもっと厳しく言って強制的に動かすようにした方がよいのでしょうか。
何度指示しても指示通りに行動しない、簡単な提出物ですら期限を守らない、組織のルールを守らずに自分のやり方で行動する……。このように、部下に指示してもなかなか行動に移してくれずに困ったことはないでしょうか。一方で、あの人に言われると無意識のうちに納得してしまい、本当は断るつもりだった仕事を引き受けてしまったという経験もあるのではないでしょうか。
相手の心をうまく動かす人の特徴を思い浮かべてみてください。いつも前向きである、仕事ができる、巻き込み力がある、勇気がある、人柄が良いなど、仕事だけではなくプライベートにおいても影響力が高い人ではないでしょうか。どうすれば影響力を高めることができるのかを考えてみましょう。
影響力とは
影響力とは、他者に働き掛けることによってその人の考えを変化させたり、行動を喚起したりする力のことです。ビジネスにおいては1人で完結できる仕事はほとんどなく、他者の協力が必要です。影響力が高ければ周囲の協力を得やすくなり、仕事の生産性も大きく高まります。
影響力は、パワーの源泉の違いから2つに分類されます。
[1]ポジションパワー
組織における地位や肩書によって生まれる力で、その地位に就くことで得られ、地位の高い人が地位の低い人に対して力を行使します。人事権など特定の権限や予算を持つこともポジションパワーの1つです。肩書を持つことで発揮できますが、地位を失うと同時になくなってしまうパワーです。
[2]パーソナルパワー
人としての魅力や信頼感を通じて肩書にかかわらず発揮される力です。その人自身の人間性や人柄、経験、実績、専門性が含まれます。周囲からの信頼がパーソナルパワーの源であり、ポジションパワーとは異なり、地位が変わっても失われることはありません。