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 約1兆円――。米ウーバー(Uber Technologies)の新規株式公開(IPO)がソフトバンク・ビジョン・ファンド(SVF)にもたらす含み益の見込み額である。

 ソフトバンクグループが投資子会社のSVFを通じて米ウーバーの発行済み株式の15%を77億ドルで取得し、筆頭株主になったのは2018年1月のことだ。

 2017年当時のウーバーはどん底の状況にあった。共同創業者が6月にセクハラ問題でCEO(最高経営責任者)職を辞任、11月にはデータ漏洩の隠蔽工作が発覚してCSO(最高セキュリティー責任者)が解雇された。同年通期の業績は売上高75億ドル(約8000億円)に対し、赤字額は調整後ベースで22億ドルに上った。

 2019年4月現在のウーバーの状況は当時より上向いている。2018年通期で売上高113億ドルと前年比4割増、赤字額は同18億ドルと2割近く減らした。

 米メディアはウーバーの上場時の時価総額は1000億ドルになる見込みと報じている。現在はSVFがウーバーの株式の16.3%を保有しており、単純計算で80億ドル(9000億円)以上の含み益が発生することになる。

 ソフトバンクグループの孫正義会長兼社長はウーバーの上場に伴い、保有株をどこまで売却し、利益を確定させるのか。その判断を推測するには、孫氏がライドシェアを含むモビリティー分野にかける熱意と戦略を振り返る必要があるだろう。

世界のライドシェア大手に出資

 「17年度の運賃は世界合計で7兆円規模、1日当たりの乗車回数は3500万回。今は4000万を超えているだろう。我々は業界全体の筆頭株主だ」。ソフトバンクグループが2018年7月に開いたイベントで、孫氏は自らが率いるライドシェア連合を誇らしげに語った。

 ウーバーと並び連合の一角を成すのが中国の滴滴出行(ディディチューシン)だ。ソフトバンクグループはSVFの姉妹ファンドであるデルタ・ファンドを通じて95億ドルを出資している。

 「競争が厳しい中国市場で育てたAIは、多くの都市で通用する」。来日した滴滴の柳青総裁は同イベントに登壇し、こう語った。

滴滴出行の柳青総裁は「AIで安全な配車サービスを実現する」と語る
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(写真:陶山勉)
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