2019年4月5日に掲載した「ニュース解説」記事の再編集版です。
世界で自家用車を使ったライドシェアが広がる中、政府は日本でのライドシェア導入を実質的に封じる方針を鮮明にしつつある。2019年3月に政府が開いた未来投資会議で示した規制改革方針は、ライドシェアに反対するタクシー業界の要望をほぼなぞったものになった。
都市部など代替交通手段がある地域でのライドシェアはこれまで通り違法の「白タク行為」として取り締まる。都市部でのライドシェアについては「検討会での議論や実証実験をする考えもない」(国交省自動車局旅客課)。路線バスやタクシーが利用できない地域では自家用車を旅客運送に使える既存制度をより使いやすくしていくものの、あくまで特例との位置付けだ。
タクシーなど自動車旅客業界は深刻なドライバー不足に悩んでいることもあり、IT業界などからは段階的にライドシェア解禁が検討されるとの期待があった。しかし日本でのライドシェア解禁はむしろ遠のいたのが現状だ。
交通空白地帯の自家用車旅客、タクシー業界と連携し推進
「地方を中心にドライバーの人手不足が深刻化している。利用者の視点に立ち、現在の制度を利用しやすくする見直しが必要だ」。2019年3月7日に政府が開いた未来投資会議、議長を務める安倍晋三首相は国交省に移動サービスに関する規制を改革するよう指示した。
最大のポイントは公共交通の空白地帯で特例的に自家用車を旅客サービスに使うための規制緩和を進めることだ。交通空白地帯向けの既存制度である「自家用有償旅客運送制度」について、運行管理や車両整備を監督する安全管理業務をタクシー会社などに委託できるようにする。
法令や通達などの形で手順などを明記して、自治体や運営を担う地元NPO(非営利団体)が負担を軽減できるようにする。2019年夏までをメドに必要な制度整備を洗い出し、次期通常国会にも改正法案を提出する予定だ。
自家用有償旅客運送制度は地方自治体や地元NPOが運営主体となる運送サービスのための制度だ。タクシー営業が成り立たない交通空白地帯を救済するべく2006年に始まった。地元の一般ドライバーが自家用車を使い、運賃を明示してサービスを提供する。既に日本の1725市町村の26%にあたる440市町村で利用されているという。
自治体はこれまでも運行管理などを外部に委託でき、実際にタクシー会社が引き受けている地域もあった。しかし制度導入を巡って自治体と地元タクシー会社がたびたび対立し、自治体側に「業務を委託しようとする発想ができていなかった」(国交省)。今回の制度整備は過去のしがらみを解消し、自治体とタクシー会社の連携を仲立ちする狙いがある。
政府はタクシー運賃の規制緩和も進める。複数の同乗者で運賃を割り勘できる相乗り運賃と、走行距離でなく目的地で運賃があらかじめ決まる事前確定運賃を新たに認める。2019年春中にも解禁する予定だ。ともに2018年に国交省がタクシー会社と都内などで実証実験を実施していた。実験の結果、利用客から一定の評価を受けタクシーの利用促進やドライバー不足解消にもつながると評価した。