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 新型コロナウイルス感染症(COVID-19)は、スポーツ組織の経営面だけではなく、選手のコンディションやフィジカル管理の現場にも大きな影響を与えている。従来、トレーナーやフィジカルコーチは選手と密に接触しながら身体状況を把握し、ケアやケガ予防を行ってきた。しかし、「非接触」が推奨される社会においては、これまでと同様の対応ができるとは限らない。そこで注目を浴びるのがテクノロジーだ。リモートで、かつ客観的なデータを通じて選手の状態を把握することができれば、感染リスクを減らしながらより正確なケアができる。そのような形で以前からテクノロジーを導入しているのがBリーグの川崎ブレイブサンダース(以下、川崎)だ。コンディショニング・フィジカル管理の現場でいち早くテクノロジーを活用し始めたことは、今回のコロナ禍でどう役立ったのか。川崎のフィジカルパフォーマンスマネージャーを務める吉岡淳平氏、そして同クラブが導入しているコンディショニング管理ツール「ONE TAP SPORTS」を提供するユーフォリアの代表取締役Co-CEOの宮田誠氏に話を聞いた。(取材日:2021年1月7日)

主観・客観データの比較でケガを防ぐ

川崎とユーフォリアが連携を始めたきっかけを教えて下さい。

吉岡 スタートは2017年、Bリーグの初年度を終えた頃です。Bリーグでは各クラブのトレーナーが集まってトレーナー部会を設立しているのですが、当時課題となっていたのが重症外傷を中心としたケガのデータベースが存在していないことでした。ケガに関するマネジメントに情報の蓄積は欠かせないので、部会長を務めていた私が中心となって宮田さんに相談したのが始まりです。

川崎ブレイブサンダースのフィジカルパフォーマンスマネージャー吉岡淳平氏
川崎ブレイブサンダースのフィジカルパフォーマンスマネージャー吉岡淳平氏
(写真:川崎ブレイブサンダース、2019-20シーズン)
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宮田 海外、例えばUEFA(欧州サッカー連盟)では各国の傷害データを集約していて、1年毎のケガの状況の変化が可視化されていますが、Bリーグではそういったものはありませんでした。吉岡さんたちは、そのようなデータベースをバスケットボール界でも構築していくべきだという問題意識を持って相談いただきました。ケガに関するデータベースは、Bリーグだけではなく他のプロスポーツやリーグでも確立されていないので、我々としても常々取り組むべき課題だと考えていましたから、吉岡さんの依頼を受け、一緒に取り組むことにしました。そして効率的にコンディション管理をしていく方法として、当社の「ONE TAP SPORTS」というデジタルツールを導入していただきました。

ユーフォリア代表取締役Co-CEOの宮田誠氏
ユーフォリア代表取締役Co-CEOの宮田誠氏
(写真:ユーフォリア)
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吉岡 当初はリーグ全体の活性化、そして代表強化を目標にしていましたので、川崎だけではなく全クラブが取り組むべきだと考えていました。ただ、最初から全体で進めることは難しかったので、まずは自クラブがモデルケースとしてデジタルツールを通したコンディションやフィジカル管理をしていくことになり、現在に至っています。

ONE TAP SPORTSをどのように使っているのでしょうか。

吉岡 日々の体調や練習後の負荷など選手の主観的なデータを記録しています。同様のデータは以前から記録しているので、ケガをしていた時期や好調・不調だった時期と現在を比較し、トレーニングや日々の行動を調整できます。スマートフォンなど身近なデバイスで入力できるので負担もかかりませんし、過去のデータも簡単に振り返ることができるのでコンディショニングに対する意識も確実に変わっています。これらのデータはアカデミーの選手たちのコンディショニングにも生かせるので、クラブとしても大きな財産になっています。

 一方で、運動量や移動距離、ジャンプの回数、それによる下肢にかかる負担などの客観的なデータは、米プロバスケットボールリーグNBAなどでも使われている「KINEXON(キネクソン)」という小型・軽量のウエアラブルデバイスを通じて取得しています。以前はJリーグなども使っている「CATAPULT(カタパルト)」というGPSデバイスを使用していたのですが、バスケットボールの場合はより小さく軽いデバイスの方が好まれるのでKINEXONを使うようになりました。KINEXONで取得したデータもONE TAP SPORTS上で確認できるようにしてもらっています。

選手の運動量など客観的なデータは「KINEXON」で取得。ユニフォームのパンツのベルト部分に装着するタイプ
選手の運動量など客観的なデータは「KINEXON」で取得。ユニフォームのパンツのベルト部分に装着するタイプ
(図:川崎ブレイブサンダース)
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 客観データと主観データを比較して、それぞれの間にあまりにも差異があるようであればケガのリスクが出てくるのでコーチ陣に伝えるようにしています。

宮田 主観データと客観データには相関関係があると言われていて、両者の間に差があると思うようにパフォーマンスを発揮できなかったり、最悪の場合には重大なケガにつながったりする可能性があります。それを防ぐためにも、主観と客観の数値をひとつの画面で確認できるのはとても大事なことです。