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 スポーツ×デジタルの取り組みは日進月歩の勢いで進んでいるが、育成年代においては幾つかの理由によって普及途中の状況でもある。その理由は何か。育成年代においても、デジタル活用が進むとスポーツを取り巻く環境はどのように変化するのか。2020年2月1日に開催された「スポーツアナリティクスジャパン2020(以下、SAJ2020)」に、デジタル×スポーツの取り組みを進める中里秀則氏(NTTコムウェア株式会社 ビジネスインキュベーション本部 BI部 統括課長)と、本田洋史氏(SOLTILO Knows株式会社 GM/Knows株式会社 GM)が登壇。「デジタル時代に向けた育成の変革 ~DXに取り組む現場の現状と課題~」と題して、育成年代へのスポーツ×デジタル活用について語った。

スポーツ×DXが導く未来

 選手が走る速度や運動量、チーム全体の戦術的傾向、観客のエンゲージメントなど、スポーツはさまざまなデータを生み出している。中里氏はこうしたスポーツ発のデータを「スポーツビッグデータ」と呼び、「今の段階ではまだ活用できていないが、将来的には統一的に管理され、様々な領域で活用されていくだろう」と話す。それは観戦・体験やヘルスケア、そして育成・教育の領域においてだ。現時点でもスポーツ×デジタルの取り組みは進められているが、デジタル活用は進んでいても「デジタルトランスフォーメーション(DX)」の取り組みはまだまだと中里氏は言う。

NTTコムウェアビジネスインキュベーション本部 BI部 統括課長の中里秀則氏
NTTコムウェアビジネスインキュベーション本部 BI部 統括課長の中里秀則氏
(写真:久我智也、以下同)

 「そもそもDXとデジタル活用は別の意味の言葉です。例えばアマゾン(Amazon.com)は、小売業態にデジタルを適用することで大きなマーケットプレイスを作って成功を収めましたが、消費者が小売店からモノを買うという形態は従来と変わってはいません。デジタルを活用しているに過ぎないんです。

 一方でメルカリは、個人間で売買が発生するCtoCのビジネスです。これはデジタルを適用して仕組みを再構築したからこそ生まれたもので、このようなものがDXと言えます」(中里氏)

 デジタルを使うだけではなく、デジタルを用いて革新的な仕組みを構築することがDXであるという。今後、スポーツの現場においてDXが起こるとどうなるのか。

 「あくまでも私見ですが、例えば選手と指導者の関係性に変化が生まれると考えています。今のスポーツは監督やコーチが選手に教えていくものですが、さまざまなデータの取得・分析ができるようになっていくと、選手が主体的に考え、学び、トレーニングに取り入れていくようになり、指導者はその補助をするような位置付けになっていくのではないかと思っています」(中里氏)

 「さらに現在、スポーツで最も大事なのは身体能力だと考えられ、筋トレや走り込みから始めていくものですが、DXが進んでいくとその前提は変わり、知能や判断力の方が大事だとなるかもしれません。そうすると、身体を鍛えるよりもVRなどを使ってトッププロの動きを体験させていくトレーニングをまず先にやるようになるかもしれません」(同)

「アマゾンの取り組みはデジタル活用であり、メルカリのような形態がDXと言える」と中里氏
「アマゾンの取り組みはデジタル活用であり、メルカリのような形態がDXと言える」と中里氏