スポーツ団体・クラブの重要な収入源であるスポンサー費。かつては「支援」が主な目的だったが、1984年のロサンゼルスオリンピックを境に「広告・露出」目的のものが増えていった。近年のスポーツ×スポンサーのあり方はさらに進化を遂げ、スポーツの力を活用して企業や地域の課題解決や価値向上を実現することがトレンドになっている。このような新しいスポンサーシップのあり方に意欲的に取り組んでいるのが、Jリーグの名門クラブ・東京ヴェルディだ。
2020年2月21日に東京都渋谷区で開催されたトークセッション「TOKYO VERDY EVOLUTION WEEK 2020 in SHIBUYA(以下、TVEW2020)」に、東京ヴェルディ パートナー営業部シニアディレクターの佐川諒氏と、同ファンデベロップメント部の菊地優斗氏が登壇。新しいスポンサーシップへの挑戦や、それを可能にしているクラブでの働き方などについて語り合った。同セッションから見えた、これからのスポンサーシップの形について紹介する。なお、ファシリテーターは東京ヴェルディ/リトリガーの八木原泰斗氏が務めた。
「支援」「広告」ではなく「共創」のスポンサーシップ
一般的にプロスポーツクラブの収入は「入場料」「グッズ」「放映権料収」「スポンサー」の4つに大別される。Jリーグといえば、2017年に英Perform Group(パフォームグループ)が展開する「DAZN(ダ・ゾーン)」が、「10年間で総額2100億円」という巨額の契約を結んで放映権料が飛躍的にアップしたことが話題になった。
しかしその裏で、スポンサー収入も年々増加の一途をたどっており、2011年度にはリーグ全体で333億円だったものが、2018年度には595億円まで増加している。売上の半分程度をスポンサー収入に頼るクラブも少なくない。日本初のプロサッカークラブである東京ヴェルディもそのひとつだが、同クラブの場合、かつてのような「支援をお願いする」「広告露出のために」といったスタンスではなく、スポンサー企業の価値向上や課題解決のためのスポンサーセールスを実行している。そのきっかけについて、ヴェルディのスポンサーセールス部門の責任者を務める佐川諒氏は次のように話す。
「私は2017年夏にヴェルディに入社しましたが、転職してすぐの頃の営業会議で『スポンサーはヴェルディに何を期待しているのか』と聞いてみても明確な答えはありませんでした。その後、他クラブの営業担当の方とお会いしたときにも同様の質問をしたのですが、やはりはっきりした回答は得られませんでした。前職のリクルートは営業力の強い会社だったので、そこで同様の質問に答えられないと『顧客に本気で向き合ってない』と言われたりします。その観点からすると、スポーツ業界はお客様に向き合うスタンスがまだまだ足りないと感じ、このスタンスを変えていきたいと思いました」(佐川氏)
「『チームを応援してください』とお願いしてお金を出していただくだけではなく、お客様の課題や目標などを読み取り、その上でサッカークラブだからこそできる提案をしていこうと考えました。そうでなくては、スポンサーの業績が落ちた時に真っ先に削られる費用になってしまうからです。そこで、1社1社カスタマイズした提案をしていくことにしました」(同)
その例として挙げたのが、介護事業などを展開する、とある企業との関わりだ。女性活躍推進に力を入れる同企業と、日本トップクラスの女子サッカーチーム・ベレーザを持つヴェルディの親和性の高さを感じた佐川氏は、社員と選手の対談企画を実施するなど、採用やインナーブランディング強化につながる施策を提案。実際にコンテンツを作成し、両者が仕事にかける思いや企業・クラブの魅力を発信していった。介護事業とサッカー選手という、一見かけ離れたようにも思える職種を掛け合わせることで、「新しい情報発信の形が見えた」と佐川氏は話す。
「サッカーに関する情報だけではなく、色々な企業や業界と掛け合わせて情報発信していくことで、選手たちやそこで働く人々のがんばっている姿を広く伝えられると感じました。この事例は、スポーツをビジネスに役立てることができたもので、この仕事をしていてすごくよかったと感じた瞬間でもあります」(同)
このように、佐川氏はヴェルディ入社後に“共創”のスポンサーセールスを展開していった結果、年々スポンサー収入増加に成功。「『なぜわざわざ難易度を上げるのか』と言われたりもしましたが、サッカーの力で企業に貢献する形をつくることが正しいと証明したかったし、自分が間違っていなかったとも思えた」と振り返った。