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“パイオニアスピリッツ”を活かした顧客アプローチ

 共創というキーワードは、企業とクラブ双方のブランド価値向上にも有効に働くという。例えばクラブ創立50周年を迎えた2019年、ヴェルディはリブランディングを実施し、ロゴデザインの刷新や、総合型クラブ化などの新しい目標を掲げた。その一環として、ユニフォームに入るスポンサーロゴのデザインを統一したのだ。デザイン性の高さだけではなく、企業のアイデンティティとも言えるロゴを統一させたことは大きな話題を呼んだが、これは“お願い”ではなく“提案”という形で実施したものだったと佐川氏は振り返る。

 「今ヴェルディはJ2に属しているので、ユニフォームにロゴを入れていただいても広告価値はそこまで高くありません。また従来、ユニフォームのスポンサーロゴは企業固有のデザインのものを用いていましたが、バラバラのままではユニフォームのデザイン性を下げてしまい、せっかくヴェルディに期待してお金を出してくれているのに、逆にスポンサーのイメージ低下を招いてしまうのではないかという危惧もありました」

 「それでは意味がないと考え、リブランディングに合わせて各社のロゴデザインを統一するように提案したんです。そうすることで、各社が一緒になってユニフォームを作っているとファン・サポーターにアピールできますし、結果的に各社の価値を上げることにもつながります。このように広告露出とは違う形で新しい価値を生んでいこうと考えたのです」(佐川氏)

 先進的なスタイルで顧客にアプローチできるのは、ヴェルディというクラブが「パイオニアスピリッツ」を持っていることも関係している。ファシリテーターを務めた八木原泰斗氏は次のように話す。

「スポーツ業界はクローズドで、奇をてらうことはあまり好まれません。それこそスポンサーのロゴデザインを変えるようお願いするのは申し訳ないのではないか、という空気感もありました。しかしヴェルディは日本で初めてのプロサッカークラブであり、常に新しいチャンレジをする“パイオニアスピリッツ”を持っています。そんな特徴を持ったクラブだからこそ実現できたのではないかと思っています」(八木原氏)

 プロスポーツクラブとしては老舗と呼べるほどの歴史を持っているヴェルディだが、同時にパイオニアだからこそ持つベンチャーマインドでスポンサーに対して柔軟に働きかけができているという。

ファシリテーターを務めた東京ヴェルディ/リトリガーの八木原泰斗氏
ファシリテーターを務めた東京ヴェルディ/リトリガーの八木原泰斗氏
2018年に広告企画、ブランディング戦略立案等を手掛けるリトリガーを設立し、2019年から企画戦略パートナーとしてヴェルディに携わる
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