アスリートのキャリア問題は、以前からスポーツ業界が抱える重要課題のひとつだ。若い頃から競技一筋で育ってきたために、現役引退後にうまく次のキャリアへと踏み出せないアスリートは少なくない。ただし近年は、各競技団体やクラブ、人材関連企業などがその支援を進めているし、自らキャリアに関する情報発信を行うアスリートも増え、徐々に空気は変わってきている。そうした状況下において注目を集めているのが、現役を引退してからではなく、現役の最中から並行して別のキャリアを歩む「デュアルキャリア」という考え方だ。
このデュアルキャリアの考え方を広めていこうと、2019年12月から2020年1月にかけて5回に渡り、日本有数のビジネス街である丸の内のまちづくり団体・エコッツェリア協会が「アスリート・デュアルキャリアプログラム」を実施。このプログラムを通じて見えたデュアルキャリアに必要なものや、乗り越えるべき課題について見ていく。
「デュアルキャリア」という考え方
アスリートのセカンドキャリアは、大きく次の3つの課題を抱えている。
- (1)競技を通して培ったスキルの活かし方がわからない
- (2)競技以外にやりたいことを見つけられない
- (3)引退後の経済的不安から短期的な選択をしてしまう
(1)はアスリート本人だけではなく、アスリートを受け入れる社会にとっても評価をしづらいものだ。(2)は幼い頃から競技一筋の生活を送ってきたために、競技から離れたときの自分を客観視する機会を持つことができなかったり、業界以外の人脈が乏しいが故にキャリアの選択肢が少ないことが大きい。(3)については、一部のトップアスリートを除く潤沢な資産や貯蓄を持たないアスリートの場合、“とりあえず”働ける場所で働き、長期的な視点を持てずにキャリアを歩んでしまうことだ。こうした課題の解決につながると期待されているのが、デュアルキャリアである。
デュアルキャリアとは、アスリートとして第一線で競技を続けながら企業で働いたり、自分で会社を興したり、資格を取得する。あるいはビジネスに直結せずともNPO法人などの組織を立ち上げて社会的な活動に取り組むなど、2つのキャリアを並行して活動することを意味する。
スポーツ以外の活動に取り組むことで業界外の人脈を獲得できるし、収入源を複数持てば引退後に抱える経済的な不安の解消にもつながる。さらに現役中から競技以外に打ち込めることを見つけておけば、引退後の「燃え尽き症候群」の緩和も期待できるとあって、スポーツ界で注目が集まっている。