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 ソニー1はフジテレビジョン、NTTドコモと共同で、5G(第5世代移動通信システム)通信サービスとクラウド上に構築した仮想中継システムを用いた遠隔制御による番組制作「CNG(クラウド・ニュース・ギャザリング)」の実証実験を2020年11月9日に行い、遠隔でのライブ番組制作に成功した。

*1 実際には、グループ企業のソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ、ソニービジネスソリューション、ソニーモバイルコミュニケーションズが参加。

 今回活用したクラウド中継システムは、従来はハードウエアで制御していた映像のスイッチング、テロップの重ね合わせ、動画ファイルの再生などの処理をクラウド上で行えることが特徴だ。ソニーはこのシステムを、報道を含むさまざまな映像制作用途での活用を想定して開発を進めている。番組制作の実証実験は、今回が初めてという。

ソニー、フジテレビジョン、NTTドコモが共同で実証実験に成功した、5G通信サービスとクラウド上に構築した仮想中継システムを用いた遠隔制御による番組制作スキーム
ソニー、フジテレビジョン、NTTドコモが共同で実証実験に成功した、5G通信サービスとクラウド上に構築した仮想中継システムを用いた遠隔制御による番組制作スキーム
(図:ソニー)
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 遠隔番組制作(リモートプロダクション)は、テレビ局などでの制作を省人・低コスト化する取り組みとして注目されている。そのニーズは昨今の新型コロナウイルスの感染拡大によって急速に高まっている。例えば、スポーツ中継ではこれまで、スタジアムやアリーナ内で映像を撮影するカメラマンのほかに、“ミニ放送局”とも言える中継車を現場に2~3台配備し、そこで複数の担当者が映像制作業務に当たっていた。しかし、中継車内は「密」の状態になるため、業界ではソーシャルディスタンスを確保する目的で、そこに入ることができる人数を制限するガイドラインもできているという。

 一方で、遠隔番組制作ならスタジアムやアリーナにはカメラマンのみを派遣し、他のスタッフはテレビ局などからリモートでクラウド上で番組を制作できる。「新型コロナの影響もあり、リモート関連の商談はとても活発だ。“待ったなし”の状態になっている」(ソニーイメージングプロダクツ&ソリューションズ メディアソリューション事業担当VPの喜多幹夫氏)という。

 今回の実証実験では、東京のお台場地区の2カ所の中継地点で撮影したニュース映像・音声をソニー製のトランスミッター(試作機)でそれぞれエンコード。それをネットワーク環境に適した形で制御しながら5G対応スマートフォンに入力し、ドコモの5G通信サービスを介してクラウド中継システムへ送信した。そしてフジテレビ本社からは、パソコンのブラウザーからインターネット経由でこのクラウド中継システムを制御し、2地点からの映像・音声をリアルタイムで切り替えながら、検証用のライブ番組を制作した。

 「生中継の放送では、複数の現場にいる人同士の掛け合いなどが重要になる。映像の品質とともに遅延が非常に少ないことが求められる」(同氏)。その点で高速・大容量と超低遅延という特徴を持つ5Gに対する期待は大きく、フジテレビ側も今回のシステムを十分実用に耐えると評価したという。実証実験の成功によって、中継現場で映像をリアルタイムに切り替えて番組制作を行う中継車の役割を、クラウド上に構築できる可能性が広がったとしている。