2020年3月、NTTドコモ(以下、ドコモ)は「スポーツ観戦における新たな体験価値の創造」と「スポーツ業界のエコシステム構築などを通じたファン拡大」を目指して、日本のプロ卓球リーグ「Tリーグ」とトップパートナー契約を締結した。同社はこれまでにもJリーグやプロ野球球団、Bリーグクラブなど多数の競技と連携し、自社の技術を提供するとともに各競技を通じて技術向上を実現してきた経験がある。そんなドコモは、プロリーグとしては後発となるTリーグのどこに可能性を感じたのだろうか。Tリーグとの取り組みを推進する馬場浩史氏(コンテンツビジネス部スポーツ&ライブビジネス推進室 室長)に、トップパートナー契約から1年が経った中での手応え、そしてドコモがスポーツを通じて目指すものについて話を聞いた。(聞き手:上野直彦=スポーツジャーナリスト、久我智也、取材日:2021年3月19日)
観戦体験価値の最大化を実現
ドコモとTリーグは、20年3月に4シーズン(20-21~23-24シーズンまで)のトップパートナー契約を締結されましたが、どのような狙いがあって契約を結ばれたのでしょうか。
馬場 我々の顧客基盤は携帯電話ユーザーですが、人口が減少していく時代において、今後シェアが大きく飛躍することはありません。その中で既存ユーザー以外にアプローチしていくには、どれだけ消費者の日常生活での接点を多面的に取っていくかが重要になります。そうやって自社の競争力向上を実現するために、Tリーグを始めとした様々なプロスポーツや音楽などのエンターテインメント分野への取り組みを行っています。
こうした考えがベースにある上で、Tリーグとの協業で特に成し遂げたいこととしては5G(第5世代移動通信方式)をはじめとした最新技術を活用して観戦体験価値の最大化を図ることです。グループ会社であるNTTぷららが以前からTリーグの映像配信の権利を有していたこともあり、中でも映像の高度化は重要な柱となっています。
Tリーグは後発のプロスポーツリーグですが、どのようなポテンシャルがあると思われていますか。
馬場 コンテンツとしては、世界トップクラスの日本人選手を数多く要する点が大きな魅力になっています。ビジネス的な観点で言うと、新規参入であるが故に非常に野心的な取り組みが可能です。スタートアップ企業的なスピード感があり、積極的にチャレンジする余地があるところに期待値を感じています。
それから、卓球をやったことがない人はほとんどいないと思いますが、このスポーツは参加へのハードルがとても低く、それだけ多くの潜在顧客がいることもポテンシャルだと思います。ただし、サッカーやバスケットボールなど他のスポーツでも、競技登録しているアマチュアアスリートたちをビジネスに組み込むのは苦労していますから、いかに卓球の潜在顧客層が多いとはいえ、アマチュア選手やレジャーで卓球を楽しむ人々をエコシステムに組み込むのは容易ではありません。この点は決して楽観視はしていません。