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「文化」になっていないと高額な席種は売れない

 アリーナの建設を進めるにあたり、木村氏はひたすら参考事例を集めていったという。ベンチマークとしたのは、米プロバスケットボールリーグNBAの全球団のアリーナだ。

 「私はNBAの全球団のシートマップを並べてひたすら眺め、なぜ楕円形なのか、あるいは八角形をしているのか。バスケットボール以外の競技やイベントを開催する上でそれらがどのような意味を持つのかといったことを考えていきました。例えばサッカーや野球では空いているスペースに砂かぶり席などを造っていて、これは軽労力で収益につながるリスペクトできる取り組みだと思いますが、あらかじめ無駄をなくすような取り組みをした上で造っていくことが非常に重要だと思っています」

 同時に木村氏は、「アリーナの世代」を押さえる重要性も説いた。同氏が定義するアリーナの世代とは次のようなものだ。

  • 第一世代:1930~1950年頃に造られた「アリーナ(的)な存在」
  • 第二世代:1950~1970年代に造られた「試合ができる場所としての存在」
  • 第三世代:1970~1990年代に造られた「試合をする前提で建設された存在」
  • 第四世代:1990~2010年代に造られた「観戦の多様化と収益化を目指した存在」
  • 第五世代:2010~2030年代に造られるであろう「デザインや技術が高度化した中で観戦スタイルの多様さが文化となり、高収益を生み出せる存在」

 (仮称)沖縄市多目的アリーナはこのうちで第三~第四世代に該当するものだ。現在の日本のアリーナは多くが第二世代のものであり、「この世代のアリーナはこれ以上増やしてはいけない」と話すと同時に、一足飛びに第五世代を目指せばいいわけではないとも指摘する。

 「アリーナ建設について論じる際、一般には高収益を期待できるスイートルームを造るべきだと言われます。しかしその席が実際にどれだけ売れるのか、それよりもコンコースでの飲食や物販を充実させた場合との収益の違いなどを先に検討・議論すべきだと思います」

 そもそも、スイートルームのような高額な席種が定常的に売れるようになるためには、アリーナやスポーツそのものを取り巻く文化が成熟していなくてはならないとも説く。

 「私は以前、米国に留学していたのですが、その頃、ボストンのフェンウェイ・パーク(米メジャーリーグ・ベースボールのレッドソックスの本拠地)の近くに住んでいました。『ボストンがなくなってもフェンウェイ・パークがある』という言葉があるくらい、あのスタジアムは文化的な力が強いんです。同じように、スポーツ施設や美術館、建造物といったものは、歴史的な文脈がとても重要で、それがなくては文化として地域に根付くことはないと思っています」

 「そうしたように、スポーツやクラブ、そしてアリーナが地域の文化になっていないと、スイートルームのような席種は売れないと思っています。だから、アリーナを取り巻く文化の醸成を目指すこと。文化が創られれば未来にもつながっていくので、こうした考えが欠かせない点を認識しておくべきでしょう」

 「誰もが使いやすい、便利なスタジアム・アリーナ」を目指すことも重要だが、その前提として「誰もが来たい、親しめるスタジアム・アリーナ」でなくてはならないということだろう。(仮称)沖縄市多目的アリーナがそうした文化を創り出せるか否かは、将来の日本のアリーナのあり方を左右することになりそうだ。