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 2020年10月、医療用眼科薬で国内トップシェアを誇る参天製薬と、NPO法人日本ブラインドサッカー協会(以下、JBFA)、並びに一般財団法人インターナショナル・ブラインドフットボール・ファウンデーション(以下、IBF Foundation)との間で10年という長期パートナーシップ契約締結というニュースが流れた。異例とも言えるこの長期契約は、単なるスポンサーシップとしてではなく、「インクルーシブな社会を構築する」という、参天製薬の本業の一環として締結されたものだ。三者が結びつくことで視覚障がい者を取り巻く環境は一変する可能性を秘めている。谷内樹生氏(参天製薬代表取締役社長兼CEO)と松崎英吾氏(JBFA専務理事兼事務局長、IBF Foundation代表理事)へのインタビューの後編では、より具体的に達成したい成果、そしてこのパートナーシップを通じてブラインドサッカーが得たものについて聞いた。(取材日:2020年11月19日)

就業機会の拡大と新職業の創造

今回のパートナーシップ契約は2030年まで続くことになりますが、この10年間で確実に達成したいと位置付けていることはありますか。

谷内 繰り返しになりますが、目に関する社会的・経済的な損失の削減です。人々の健康意識を高めていけば、目に関する悩み事が生じた際にも早期診断を促しやすくなりますし、その結果、失明の危険を避けられる可能性も高まります。また、失明をしてしまった人は自宅に引きこもってしまうケースが多く、これも社会的には損失です。そうした人々が社会に参画しやすい環境をつくりだしていきたいですし、そこでブラインドサッカーを活用できると経済効果の創出も期待できるでしょう。こうしたことを実現するには学校教育に関与していく必要があるので、その意味でも10年スパンで考えていかないとなりません。

 現時点では、実際にどれだけの損失が生じていて、今後どれくらいの成果を出せるか、具体的な数字や予測値はまだ出せていません。これから明確なデータの取得も進めていくつもりです。

参天製薬代表取締役社長兼CEOの谷内樹生氏
参天製薬代表取締役社長兼CEOの谷内樹生氏
(写真:参天製薬)
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松崎 まず、ブラインドサッカーのグローバル展開を担うIBF Foundationの立場から言うと、目に関する啓発があります。ブラインドサッカーは視覚障がい者にやってもらいたいスポーツであり、競技にとっては視覚障がい者が必要です。しかしそのスタンスでいると、下手をすると我々自身が、目が見えない状態を促進してしまいかねないという危惧があります。当然、我々もブラインドサッカーを通じて目にまつわる社会的・経済的損失を減らしたいと思っていますから、海外においてもブラインドサッカーを通じて社会に貢献していくことを目指していきます。

 また、国内を統括するJBFAの立場としては、視覚障がい者の就業環境改善に取り組んでいきたいです。かつて視覚障がい者がアクセスできる情報媒体は極端に少なかったため、「情報弱者」といわれていました。それ故に、社会では「視覚障がい者にはできることが少ない」という思い込みがありました。結果的に彼らが働ける職場は少なく、仕事に就けても年収が低いという課題が生じ、それは今でも続いています。

 でも現在では、インターネットのニュースサイトなどは、読み上げ機能によって「読める」ようになり、スマートフォンなどのデバイスも使いやすくなっていますから、「視覚障がい者=情報弱者」ではありません。それだけに、彼らがチャレンジできる職種はもっと増えていくべきです。実際に近年ではSE(システムエンジニア)の職に就くケースが増えています。テクノロジーの進化に合わせて彼らの就業機会は増えていくはずですし、我々がそれを促進していきたいと考えています。そのためには、ブラインドサッカーを通じて視覚障がいに対するバイアスや偏見をなくしていくことも重要だと思っています。

谷内 雇用は我々にとっても重要なテーマです。既存の職業に就きやすくすることも大切ですが、彼らの能力が活かせる職業そのものをつくることも必要です。それは社内の担当者にも検討を進めてもらっていますし、イノベーションハブでも取り上げていきたいと思っています。

 視覚障がい者を雇用するとき、多くの企業はヘルスキーパーやマッサージ師として採用していますが、参天製薬では、企画部門や人事部門で職域・職業開発や目に関する課題解決方法の検討などを担当してもらっています。彼らのアイデアや目のつけ所は、私たちからすると目から鱗が落ちるようなものです。晴眼者が考える視覚障がい者のための施策と、視覚障がい者が自ら変えていこうという世界観は大きく違うということに気付かされますし、そうしたものを世に出せるように、社内でも色々な取り組みをしている状況です。

JBFA専務理事兼事務局長、IBF Foundation代表理事の松崎英吾氏
JBFA専務理事兼事務局長、IBF Foundation代表理事の松崎英吾氏
(写真:JBFA)